自己確認理論(self-verification theory)は、人が自分について持つ見方と一致するように、他人からも理解・評価されることを求める、という考え方です。自己検証理論と呼ばれることもあります。「褒められたい」という願いだけでは捉えきれない、他人からの評価の受け取り方に注目します。
恋愛の研究でも検討されていますが、「自信がない人は冷たい恋人を好きになる」と一括りにする理論ではありません。否定的に扱われる理由を本人のせいにしたり、相手を傷つける言葉を正当化したりする使い方も避けたいところです。
自分への見方と、相手の評価が一致すること
「私は初対面の会話が得意ではない」と思っている人が、恋人から「初めて会う人とも緊張せずに話せるよね」と言われた場面を考えてみましょう。好意的な言葉でも、本人は「本当は緊張しているのに、分かってもらえていない」と感じるかもしれません。
この例は、自己像と相手の評価がずれている状態を説明するためのものです。実際に戸惑った理由が自己確認なのかは、場面を確認しないと分かりません。言い方、疲れ、過去の経験など、別の理由も考えられます。
また、自分についての見方が正確であることと、その見方に合った評価を求めることも別です。「自分には無理」という見方があるからといって、本当にできないと確定したわけではありません。
肯定的に見られたい気持ちとの違い
| 注目する願い | 会話で考えられる例 |
|---|---|
| 好意的・肯定的に評価されたい | 頑張ったことを認めてもらえてうれしい |
| 自分の見方と一致するよう理解されたい | 得意な面だけでなく、苦手な面も分かっていてほしい |
二つはいつも対立するわけではありません。自分が得意だと思うことを相手も認めてくれれば、肯定的な評価と自己像の一致が同時に起こります。
一方、自分の見方が否定的な場合は、好意的な評価を受けることと、いつもの自己像が確かめられることが別方向になる場合があります。「褒められてうれしい」と「自分とは違う気がする」が、同時にあってもおかしくありません。
配偶者との研究で報告されたこと
Swannらの1992年の研究では、肯定的な自己像を持つ人は好意的に評価する配偶者へのコミットメントが高く、否定的な自己像を持つ人では異なる方向の関連が報告されました。著者らは、自分の見方に合う評価を求めるという観点から解釈しています。学会が掲載する原著論文の抄録で確認できます。
ここでいうコミットメントは、関係への関与を捉える研究上の指標です。評価の低い相手から傷つけられることを、誰もが楽しんでいるという意味ではありません。配偶者の評価、本人の自己像、関係の状態を混同せず読む必要があります。
交際中のカップルにも同じように当てはまる?
1994年の研究は、既婚と交際中を含む176組のカップルを調査しました。既婚者では自己像を確かめる配偶者との親密さ、交際中の人では好意的に評価する相手との親密さが関連する、という違いが報告されています。原著論文の抄録(PubMed)。
ただし、この結果から「結婚すると人は必ず変わる」とは言えません。異なる人たちの状態を調べた結果を、そのまま同じ人の結婚前後の変化や、結婚の因果的な効果に置き換えることはできないためです。研究に含まれた集団を超えて、すべての関係へ一律に当てはめることも避けましょう。
日常で役立てるなら、評価の根拠を話す
以下は理論を踏まえた会話の提案であり、二つの研究で効果が検証された手順ではありません。
褒める側は、見たことを具体的に伝える
「何でもできる」「絶対に大丈夫」のような大きな評価が相手に合わないときは、実際に見た行動に言葉を戻せます。
「緊張していたんだね。それでも、相手の話を最後まで聞いて質問していたのが印象に残ったよ」
苦手だと感じた経験を打ち消さず、自分が肯定的に見た部分を伝える例です。相手の自己像を全部肯定することとも、無理に変えようとすることとも分けて考えられます。
受け取る側は、うれしさと戸惑いを別々に伝える
「そう見てくれたのはうれしい。自分ではまだ得意だと思っていないので、どの場面でそう感じたのか聞いてみたい」
すぐに相手の評価へ同意する必要はありません。「ありがとう」と受け取ることと、その評価を自分の結論にすることは別です。話を聞いてみて、今は保留にすることもできます。
否定的な扱いを受け入れる理由にしない
恋人から人格を否定されたり、苦手なことを繰り返し笑われたりしたとき、「自己確認を求めている自分が悪い」と考える必要はありません。研究の説明は、傷つける行動の責任を受けた側へ移す根拠にはなりません。
「自分はこういう人間だと思う」という話ができることと、「だから見下してもよい」ということは違います。自分にも苦手な面があると認めながら、相手には尊重する言葉を求められます。
「苦手なのは自分でも分かっている。でも、そのことで馬鹿にする言い方はやめてほしい」
話すことが怖い場合や、伝えると脅される場合は、二人での話し合いだけにこだわらず、信頼できる人に状況を伝える方法もあります。
「分かってほしい」の中身を確かめる
自己確認理論は、好意的な言葉がいつも同じように受け取られるわけではない、と考える手がかりになります。一方で、褒め言葉への反応だけから相手の自己像や交際の将来を診断することはできません。
恋人との会話では、「どんな部分を見てそう思ったのか」「自分ではどう感じているのか」をすり合わせてみましょう。相手の理解と自分の理解を、どちらか一方で決めきらず話せることが大切です。
参考文献
- Swann, W. B., Hixon, J. G., & De La Ronde, C. (1992). Embracing the Bitter “Truth”: Negative Self-Concepts and Marital Commitment. Psychological Science, 3(2), 118–121. DOI。
- Swann, W. B., De La Ronde, C., & Hixon, J. G. (1994). Authenticity and positivity strivings in marriage and courtship. Journal of Personality and Social Psychology, 66(5), 857–869. 論文情報。