心理学の論文で、二つの円が少しずつ重なる図を見たことはありませんか。IOS尺度(Inclusion of Other in the Self Scale)は、自分と特定の相手の関係を、どれくらい近く感じるか表すための図式的な尺度です。相手の本心を見抜いたり、相性の合否を決めたりする診断ではありません。
「親密さを測定した」という研究の説明を理解するために、何を答える道具なのか、どこまで解釈できるのかを整理します。
二つの円は何を表す?
Aron、Aron、Smollanが1992年に開発したIOS尺度では、自分と相手を表す二つの円が使われます。離れているものから大きく重なるものまで、重なり方が異なる七つの組のうち、自分が感じる関係を最もよく表すものを選びます。
円は主観的なつながりを示す比喩です。実際の交際期間、同居の日数、共有する持ち物の割合を図に換算するものではありません。ここでは正式な回答画面を再現した診断は行わず、尺度の考え方を紹介します。
一つの質問でも、研究に役立つのか
Gächterらの2015年の研究は、成人計772人を対象とする三つのオンライン研究で、IOS尺度を評価しました。ほかの複数の親密さの尺度と正の関連があり、複数指標から構成した親密さの指標とも強く関連していました。
これは、短い図式的な質問でも、主観的な親密さの一定の側面を捉えられることを示す結果です。一方、「一問で関係のすべてが分かる」「詳しい質問や会話が不要」という意味ではありません。
研究では恋人に限らず、友人や知人などの関係も扱われています。IOSを恋愛専用の愛情メーターとして読むのは適切ではありません。
測っているものと、測っていないもの
| 読み取る対象 | それだけでは判断できないこと |
|---|---|
| 回答者が感じる相手との近さ | 相手がどれほど自分を好きか |
| ある時点での主観的なつながり | 今後別れるか、結婚するか |
| ほかの尺度とも関連する親密さの一側面 | 安全、尊重、満足、自律性の全体 |
「よく測れる」という評価には、何を測りたいかという前提があります。親密さを捉える道具として有用であることと、恋愛のあらゆる判断に有用であることは違います。
円が大きく重なれば、必ずよい関係?
図の重なりが大きいことを、「個人の境界をなくすべき」という処方に変える必要はありません。近さを感じることと、自分の時間や意見を持てることは、別に確認できます。
一緒にいる時間が多くてもつらい関係はあり得ますし、離れて過ごす時間を持ちながら近さを感じる場合もあります。尺度の回答一つで、どの行動が必要かまでは分かりません。
二人の答えが違ったら、愛情の差?
回答が違うことを、そのまま愛情の優劣とみなすことはできません。円の意味づけや、今思い浮かべた場面が違うかもしれません。強制的に答えをそろえるより、具体的な経験を聞く余地があります。
たとえば「近さを感じるのは、どんな時間?」「最近もっと共有したいことはある?」という話題にできます。これは尺度を使った効果検証済みの会話法ではなく、点数の比較から日常の経験へ話を戻す例です。
心理尺度は、会話を置き換える判定ではない
研究では、多くの人の回答を集め、別の変数との関連や変化を調べます。一人の回答から相手の心を読む使い方とは目的が異なります。自分の回答を偽らず表せること、答えたくない場合は断れることも大切にしたいところです。
論文で「IOSで親密さを測った」とあったら、誰が誰との関係を答えたのか、いつ測ったのか、ほかの何と関連していたのかを確認すると、結果を具体的に読めます。円の重なりを増やすこと自体を、二人の目標にする必要はありません。
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参考文献
Aron, A., Aron, E. N., & Smollan, D. (1992). Inclusion of Other in the Self Scale and the structure of interpersonal closeness. Journal of Personality and Social Psychology, 63(4), 596–612. 尺度開発論文
Gächter, S., Starmer, C., & Tufano, F. (2015). Measuring the closeness of relationships: A comprehensive evaluation of the ‘Inclusion of the Other in the Self’ Scale. PLOS ONE, 10(6), e0129478. 評価研究の原著本文