感情分化(emotion differentiation)は、自分の感情を、その場面に応じて細かく区別して経験・報告する程度を指す概念です。「嫌な感じ」だけでまとめるのではなく、いら立ち、不安、悲しさなどを区別することに注目します。「感情の粒度」と呼ばれることもあります。
感情に名前をつける感情ラベリングとは関連しますが、同じ意味ではありません。感情分化の研究では、一度の会話で感情語を使えたかだけではなく、複数の場面で感情をどう区別しているかを調べます。この記事では概念の違いと、恋人や他者の感情理解との関連を調べた研究を紹介します。
感情分化は「難しい感情語を知っていること」ではない
いら立つ、心配、寂しい、残念。こうした言葉をたくさん知っていても、どんな場面でもすべて同じ強さだと報告するなら、研究上の感情分化が高いとは限りません。注目するのは単語の数だけではなく、状況に応じて感情を区別する使い方です。
たとえば、楽しみにしていた約束がなくなった日と、大切な返事を待つ日では、同じ「つらい」でも中身が違うかもしれません。前者では残念な気持ち、後者では心配が強い場合もあります。ただし、これは意味を考えるための例です。出来事から正解の感情が一つ決まるわけではありません。
また、複数の感情が同時にあることとも矛盾しません。「うれしいけれど緊張する」「怒っていて悲しくもある」という経験もあります。感情分化を、一つの感情だけに絞る練習と捉える必要はありません。
感情ラベリング・共感的正確さとの違い
| 概念 | 主な焦点 |
|---|---|
| 感情ラベリング | 感情の経験や刺激に、感情を表す言葉をつけること。 |
| 感情分化 | 複数の場面で、感情をどれほど細かく区別して経験・報告するか。 |
| 共感的正確さ | 相手の感情や考えを、本人の報告などに照らしてどれほど正確に推測できるか。 |
「不安だ」と一度言葉にした行為は、感情ラベリングとして考えられます。その一言だけから、その人の感情分化が高いか、恋人の感情を正確に理解できるかまでは分かりません。
気持ちに名前をつける方法を知りたい場合は、感情ラベリングの記事で具体例を紹介しています。本記事では、感情を区別する程度を測る研究に焦点を当てます。
研究では、どうやって感情分化を測る?
方法の一つは、日常生活の中で何度も、複数の感情の強さを回答してもらうものです。そこから、感情ごとの回答が場面を通じてどのように一緒に変動するかを指標化します。画像などを見た後に感情を評定してもらう方法もあります。
重要なのは、第三者が一つの場面を見て「本当は怒りなのに不安と答えたから間違い」と採点する検査ではないことです。本人の報告を繰り返し集め、そのパターンを研究上の指標にします。
そのため、日記を一行読んだり、会話の感情語を数えたりしただけで、恋人の感情分化を診断することはできません。何を測る課題なのかを確かめず、言葉を多く使う人ほど優れていると順位をつけないようにしましょう。
恋人の感情理解と関連する?
2016年:日常生活での恋人の気分の推測
Erbasらは、恋愛関係にあるカップルに、自分の感情と相手の気分の推測を日常生活で繰り返し報告してもらいました。最終分析は98人を対象とし、ネガティブな感情をよく区別する人ほど、相手がどれくらい快く感じているかを、本人の報告に近く推測する傾向が見られました。2016年の原論文
この結果を「感情名を細かく覚えれば、恋人の本音を見抜ける」と言い換えることはできません。調べたのは関連であり、語彙を教えて効果を確かめた訓練ではありません。また、相手の快・不快の程度に近く答えることと、気持ちの理由や希望まで理解することは別です。
2019年:他者の感情表現を見分ける課題
Israelashviliらは、363人と217人の二つの研究で、ネガティブな感情分化と他者の感情表現を認識する課題成績の関連を調べました。感情分化が高い人ほど、感情認識の成績も高いという結果が得られました。二つ目の研究では、使う感情情報の量が異なる複数の課題で検討しています。2019年の原論文
これは恋人同士の口論を解決する効果を検証した研究ではありません。用意された表現を見分ける課題の成績を、そのまま日常の人間関係のうまさと同一視しないことが大切です。
感情を区別できても、相手の答えを優先する
研究が示すのは平均的な関連です。自分は感情の違いがよく分かると思っていても、目の前の相手については推測が外れることがあります。
たとえば、恋人が静かにしているとき、「これは悲しさではなく怒りだ」と分類を確定するより、本人が話せる状態なら「今は話したい? 少し一人でいたい?」と必要な対応を尋ねられます。相手が「どちらでもなく疲れた」と答えたら、その説明を受け止めましょう。
一方で、本人も気持ちをすぐ言い表せないことがあります。「何が悲しいのか」「怒りと不安のどちらなのか」を答えられるまで問い続ける必要はありません。感情分化の知識を、説明を迫る理由にしないことが大切です。相手の推測と本人の経験の違いについては、共感的正確さの記事でも詳しく扱っています。
この概念から、決めつけないでほしいこと
- 気持ちを言葉にするのが苦手だから、愛情も少ないと判断する。
- 「モヤモヤする」と言う人は、感情分化が低いと決める。
- 感情語を増やせば、必ず気分や恋愛関係が改善すると約束する。
- 恋人の言葉より、自分がつけた感情名のほうが正しいと主張する。
話す余裕がない日や、言葉を選ぶ途中のこともあります。また、細かく感じ方を説明できたとしても、予定の調整や約束の問題は別に残ります。感情の違いを理解することを、現実の用件の代わりにしないようにしましょう。
参考文献
- Erbas, Y., Sels, L., Ceulemans, E., & Kuppens, P. (2016). Feeling me, feeling you: The relation between emotion differentiation and empathic accuracy. Social Psychological and Personality Science, 7(3), 240–247. DOI
- Israelashvili, J., Oosterwijk, S., Sauter, D., & Fischer, A. (2019). Knowing me, knowing you: Emotion differentiation in oneself is associated with recognition of others’ emotions. Cognition and Emotion, 33(7), 1461–1471. DOI
感情分化は、感情の違いをどう経験・報告するかを考える概念です。恋人を上手・下手に分ける採点表ではありません。自分と相手の感じ方を一つにまとめず、分からない部分は分からないまま確認できる余地を持っておきましょう。