関係流動性(relational mobility)とは、人との関係を自分の希望に合わせて選び、新しい関係をつくったり、今の関係から離れたりする機会が、周囲の社会環境にどれだけあるかを表す概念です。恋人が多い人や、社交的な人を分類する性格タイプではありません。
恋愛の親密さや情熱を考えるとき、本人の性格だけでなく、どのような人間関係の環境にいるかに目を向ける研究があります。この記事では関係流動性の意味と関連研究を紹介し、国や地域の傾向から目の前の恋人を決めつけないための注意点を解説します。
「出会う機会」と「関係を選べる自由」に注目する
関係流動性が高い環境では、新しい相手と知り合い、自分に合う関係を選ぶ機会が比較的多いと考えられます。低い環境では、状況によってできた人間関係が続きやすく、別の関係へ移る選択肢が限られる面があります。これは、どちらが優れているかを示す順位ではありません。
イメージするための例として、参加先を自由に選べる複数の集まりがある場合と、毎日同じ小さな集団で過ごし、新しい人と会う機会が少ない場合を考えてみます。同じ人でも、周囲の条件によって関係の選びやすさは違って見えるでしょう。ただし、この例だけで実際の流動性を測れるわけではありません。
また、転居や移動の回数と同じ概念でもありません。遠くへ移動しても新しい関係を選ぶ余地が少ないこともあれば、同じ場所に住みながら多くの交流先を選べることもあります。
なぜ、関係を選べる機会が親密さと関連するの?
関係を選ぶ機会が多いなら、相手との結びつきが弱くなるだけでは、と感じるかもしれません。研究では別の可能性も考えます。お互いにほかの関係を選べる環境だからこそ、今の相手と関係を続けたいことを示し、つながりを育てる行動が重要になる、という説明です。
この視点では、親密な気持ちや、自分のことを話す自己開示を、個人の内面だけで完結するものとして扱いません。周囲の関係の選びやすさと、関係を保つための行動との結びつきを検討します。こうした考え方は社会生態学的アプローチに位置づけられます。
研究で示されていること
2018年の39社会を対象にした調査
Thomsonらは、39の国・地域で計16,939人を対象にウェブ調査を行いました。関係流動性が高い社会では、自己開示やサポート行動、親密さなどをより高く報告する傾向が見られました。友人関係と恋愛関係の双方を扱った研究です。2018年の原論文
募集にはFacebook広告を用いています。そのため、各国の全住民を無作為に選んだ結果として読むことはできません。また、社会間で見られる関連から、一人の恋人の気持ちや、二人の交際の行方を予測することもできません。
なお、この論文には2019年に補足資料の訂正が出ています。歴史的な民族的多様性を扱う指標の表記と分析に関する訂正であり、研究を読む際には訂正情報も参照できます。
2015年の日加比較:親密さと自由度
山田・鬼頭・結城の研究は、日本とカナダの参加者に、親友・恋人・親しい家族への親密さと、周囲の関係を選ぶ自由度などを尋ねています。カナダの参加者は親友や恋人への親密さをより強く報告し、親友への親密さの差は、関係を選ぶ自由度によって統計的に媒介されました。日本語の論文要旨
ここで重要なのは、親友について示された媒介の結果を、そのまま恋人についても同じだったと広げないことです。「親密さの国際差」と「その差を説明する分析で何が確認されたか」は、分けて読む必要があります。
2017年の日米比較:恋人への情熱
Yamadaらは、交際中の米国107人・日本51人を分析対象に、周囲の恋愛関係の選びやすさと、恋人への情熱などを調べました。米国の参加者のほうが情熱を強く報告し、その差の一部は認知された関係流動性によって説明されました。2017年の原論文
ただし、これは特定の方法で募った参加者の質問紙調査です。「出会いを増やせば情熱が強くなる」という介入の効果を示したものではありません。国籍によって愛情の深さが決まる、と読むこともできません。
関係流動性を知っても、分からないこと
この概念は、次のような疑問に直接答える診断ではありません。
- 恋人が自分をどれくらい好きか。
- 新しい友人が増えた恋人が、別れを考えているか。
- ある国出身の人が、必ず積極的に愛情表現をするか。
- 今の関係を続けるべきか、離れるべきか。
たとえば、交友関係が広いという情報だけでは、その人がどの関係を大切にしているかは分かりません。新しい環境へ移った後に連絡が減ったとしても、予定の変化や疲れ、連絡の好みなど、確認したいことはほかにもあります。理論の名前で理由を一つに決めないことが大切です。
恋人との会話に生かすなら、環境の変化を具体的に聞く
ここからは研究結果そのものではなく、環境にも目を向けるための会話の例です。関係流動性を測る質問紙や、効果が検証された相談手順ではありません。
就職や進学、転居などで生活が変わったときは、「前よりどんな予定が増えた?」「今の生活で、二人で話す時間はいつ取りやすい?」と具体的に聞けます。相手の交友関係を制限するためではなく、二人の過ごし方を相談するための確認です。
自分が狭い人間関係の中で「この関係しかない」と感じているなら、友人や趣味のつながりを持つ余地について考えることもできます。ただし、新しいつながりを持つことを、恋人への駆け引きや、関係を必ずよくする方法として扱う必要はありません。
一方で、新しい知り合いが増えた相手に「選択肢が多いから浮気するはず」と迫ると、確認したい内容から話がそれます。不安がある場合は、「最近会う予定が決まりにくくて寂しい。来週の予定を相談したい」と、自分の体験と希望を伝えられます。
性格だけで説明しきらないための視点
親密さの感じ方や表し方には、本人の希望、相手との経験、周囲の環境など、さまざまな要素が関わります。関係流動性は、そのうち人間関係を選べる機会に光を当てる概念です。日常のやり取りで、相手が自分をどう受け止めていると感じるかは、恋愛のリスク調整モデルで扱う視点とも区別して考えられます。
参考文献
- 山田順子・鬼頭美江・結城雅樹 (2015). 友人・恋愛関係における関係流動性と親密性―日加比較による検討―. 実験社会心理学研究, 55(1), 18–27. DOI
- Yamada, J., Kito, M., & Yuki, M. (2017). Passion, relational mobility, and proof of commitment: A comparative socio–ecological analysis of an adaptive emotion in a sexual market. Evolutionary Psychology, 15(4). DOI
- Thomson, R., et al. (2018). Relational mobility predicts social behaviors in 39 countries and is tied to historical farming and threat. PNAS, 115(29), 7521–7526. DOI(2019年の補足資料訂正あり)
関係流動性を知る意味は、恋人を国や環境の型に当てはめることではありません。「本人の性格だけで決めつけず、関係を取り巻く条件も見てみる」という視点を持ち、目の前の相手には本人の気持ちを確かめていきましょう。