恋愛のリスク調整モデルとは?近づきたいのに傷つくのが怖い心理を考える

恋人に頼りたいのに、断られるのが怖くて「一人で大丈夫」と言ってしまう。親しくなりたいのに、関係が大切になるほど距離を置きたくなる。こうした揺れを考える理論の一つが、恋愛関係のリスク調整モデル(risk regulation model)です。

このモデルは、相手とのつながりを求めることと、拒絶で傷つくことから自分を守ることの調整に注目します。「怖くても信じればよい」という勧めではありません。相手に大切にされていると感じられるかが、どれだけ頼れるかに関わる、という考え方です。

親しくなることには、相手に委ねる部分がある

相談をする、寂しさを伝える、助けを頼む。こうした行動では、相手の返事によって気持ちや予定が左右されます。仲を深めるきっかけになる一方で、望んだ反応が返ってこない可能性もあります。

Murray、Holmes、Collinsが2006年に示したモデルは、この二つの側面を扱っています。中心にあるのは、相手が自分を好意的に受け止め、気にかけてくれるという確信です。その確信を手がかりに、人はつながりを求めることと自己防衛を調整すると考えます。2006年の論文要旨

ここでいう「頼る・依存する」は、生活をすべて相手任せにする意味ではありません。自分の望みや弱い部分を示し、相手の対応が自分に影響する場面を含みます。

モデルが区別する三つの過程

2006年の理論では、認知・感情・行動に関わる三つの過程を区別しています。日常の言葉で大まかに表すと、次のようになります。

過程 注目すること
評価 相手に頼る場面で、受け入れてもらえるかを見積もる。
シグナル 受け入れられた・拒まれたという捉え方が、満たされた気持ちや傷つき、自尊心の変化と結びつく。
頼り方の調整 その捉え方に応じて、今後どれほど相手に頼るかを調整する。

これは三つの手順を順番に実行するマニュアルではなく、人の反応を説明するための枠組みです。また、「受け入れてもらえると感じること」と「相手が実際にどう考えているか」は同じではありません。原論文(PDF)

研究では何が調べられた?

2008年:自尊心と、つながり・自己防衛の調整

Murrayらの2008年の論文は、一つの相関研究と八つの実験から、リスクを感じる状況での目標の調整を検討しています。報告では、自尊心が高い人ではつながりへ向かう調整が、自尊心が低い人では自己防衛を優先する調整が見られ、理論を支持する結果が得られました。2008年の研究要旨

ただし、この結果から、一度頼みごとを断念した人を「自尊心が低い」と判定することはできません。相手の余裕を考えて今日は頼まない場合も、過去に実際に嫌な対応をされたため控える場合もあります。研究上の傾向は、個人の心の中を言い当てる道具ではありません。

新婚夫婦の追跡研究:大切にされている感覚と頼り方

Derrickらの研究では、新婚夫婦を結婚後九年間にわたって追い、相手から大切にされているという感覚の変化と、その後の頼り方との関連を調べました。その感覚の変化が後の依存の程度を予測する結果が報告され、モデルの行動面を支える知見になっています。追跡研究の本文

時間を追って調べることは、一度だけの調査より変化の順序を検討する助けになります。一方で、観察研究から、ある一つの言葉かけが関係を改善するとまでは断定できません。新婚夫婦の結果を、付き合う前の相手やあらゆる交際関係にそのまま当てはめることにも注意が必要です。

日常への応用例:相談をためらう場面を分けて見る

ここからは、理論を日常で考えるための例です。以下の整理方法や例文自体の効果を、上記の研究が検証したわけではありません。

たとえば、仕事で困った日に「少し話を聞いてほしい」と思いながら、恋人への連絡をためらったとします。自分を「頼れない性格」とまとめる前に、その場面について書き分けてみます。

  • 起きていること:今日は仕事で困り、話を聞いてほしい。
  • 予想していること:重いと思われるかもしれない。
  • 確認できていること:前は話を聞いてくれたが、今日は相手の予定を知らない。

確認できていない部分があるなら、「今日か明日、10分だけ話を聞いてもらえる? 今忙しければ別の時間で大丈夫」と、相手が答えやすい範囲の相談にできます。すべてを一度に打ち明ける必要はなく、今日は話さない選択もできます。

返事が「今日は難しい」だった場合も、相談内容やあなた自身の否定なのか、その日の都合なのかは区別したいところです。「分かった。別の日なら話せそう?」と確かめる余地があります。ただし、いつも一方だけが待ち続ける状態なら、頼りたい場面に応じてもらえているかを改めて相談しましょう。

恋人を安心させるために、何でも引き受ける必要はない

このモデルを知ると、「断ったら相手を不安にさせるから、全部応じなければ」と感じるかもしれません。しかし、無理な約束を増やすと、続けられずに二人とも困ることがあります。

話を聞く余裕がない日は、「今日は疲れていて集中して聞けない。明日の夜なら話せる」と、自分の限界と可能な範囲を伝えられます。相手の不安をなくすために、睡眠や仕事、自分の人間関係をいつも後回しにする必要はありません。

また、わざと返事を遅らせたり、別れをほのめかしたりして、相手の愛情を確かめる方法として使わないでください。不安があるなら「最近、相談すると迷惑かなと思ってしまう。話してよいタイミングを相談したい」と、知りたいことを言葉にするほうが具体的な話につながります。

距離を置くことが必要な場面もある

侮辱される、嫌だと言ったことを繰り返される、秘密を勝手に広められるなど、実際の行動に理由があって頼れなくなることもあります。そうした状況まで、自分の怖がり方の問題に置き換える必要はありません。

この理論から考えたいのは「もっと近づくべきか」だけではなく、「安心して頼れるやり取りがあるか」です。会話の目標自体を整理したい場合は、接近目標と回避目標の違いも関連する視点になります。

参考文献

  • Murray, S. L., Holmes, J. G., & Collins, N. L. (2006). Optimizing assurance: The risk regulation system in relationships. Psychological Bulletin, 132(5), 641–666. DOI
  • Murray, S. L., Derrick, J. L., Leder, S., & Holmes, J. G. (2008). Balancing connectedness and self-protection goals in close relationships: A levels-of-processing perspective on risk regulation. Journal of Personality and Social Psychology, 94(3), 429–459. DOI
  • Derrick, J. L., Leonard, K. E., & Homish, G. G. (2012). Dependence regulation in newlywed couples: A prospective examination. Personal Relationships, 19(4), 644–662. DOI

近づきたい気持ちと傷つきたくない気持ちは、同じ人の中にあり得ます。リスク調整モデルを、自分や恋人を採点するためではなく、何が安心を支え、どんな場面で頼りにくくなるのかを考える手がかりにしてみてください。

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