好意のギャップ(liking gap)とは、会話相手が自分に抱いた好印象を、本人が低く見積もるずれのことです。会話の後に「あの話はつまらなかったかも」と感じても、その自己評価が相手の評価と同じとは限りません。
ただし、「自分が思うより好かれている傾向がある」という研究は、気になる相手が恋愛感情を持っている証拠ではありません。この記事では、研究で比べられた評価の意味と、デート後や初対面の後に一人で反省を続けてしまうときの整理方法を紹介します。
研究で比べたのは「相手の評価」と「相手の評価についての予想」
たとえば、あなたが相手に「話しやすい人だった」と思われていたとしても、自分では「退屈させた」と予想することがあります。この二つを実際に比べるのが、好意のギャップ研究の出発点です。
Boothbyらの2018年の論文では、初対面の会話、一般参加者のワークショップ、大学の寮で知り合った人同士など、複数の場面を調べました。会話相手をどの程度好ましく感じたかと、自分が相手にどの程度好ましく思われたと思うかを尋ねたところ、平均的には自分への好意を低く見積もる傾向が見られました。会話の長さが異なる場面でも観察され、寮での追跡では数か月続くずれも報告されています。
研究内容は学術誌の公式抄録で確認できます。これは、全員が必ず過小評価するという結果でも、相手の気持ちを外から読み取れるという結果でもありません。
自分の反省だけでは、相手の気持ちは分からない
「あの言い方は変だった」「もっと面白く話せたはず」という自分へのコメントは、相手への質問の答えではありません。自分の中の反省が厳しいほど、その声を相手の評価のように扱っていないか、一度分けてみる余地があります。
著者の研究紹介でも、自分の会話への批判的な見方がずれに関わることが説明されています。ただし、あなた個人の不安の原因がこの仕組み一つで説明できるわけではありません。
「好意のギャップ」と「脈あり」は、どう違う?
日常の「好き」には、親しみやすさ、会話の楽しさ、友人としての好感、恋愛感情など、複数の意味があります。研究で会話相手への好感が示されても、交際したいという意思まで分かったことにはなりません。
| 分かったこと・見えたこと | そこからは分からないこと |
|---|---|
| 研究の平均では、自分への好印象を低く見積もった | 特定の相手があなたを恋愛対象として見ているか |
| 相手が「話せて楽しかった」と言った | 交際したいか、いつでも会いたいか |
| 自分は沈黙を気まずく感じた | 相手も同じように感じたか |
| 相手が次の誘いを断った | あなた全体を嫌っているか。ただし誘いへの返事は尊重する |
「不安だから脈なし」と即断する必要はありません。同時に、研究を理由に「断られても本当は好きなはず」と考え続けるのも飛躍です。相手が示した返事と境界線を、そのまま受け取ることは大切です。
会話の後は、三種類の情報を混ぜない
頭の中で反省が続くときは、紙やメモに次のように書き分ける方法があります。これは記事で提案する整理法であり、元の研究が効果を検証した治療法ではありません。
観察できた事実
「一度、話が途切れた」「相手から趣味の質問があった」「帰り際に『ありがとう』と言われた」など、実際に起きた言動を書きます。「冷たい目をされた」は解釈が混じることがあるため、何を見てそう感じたのか、できるだけ具体的にします。
自分の感想と推測
「私は緊張した」「嫌われたように感じる」「相手は退屈だったと思う」を分けます。自分が緊張した事実は大事にしつつ、相手についての予想には「まだ分からない」を添えられます。
次回に変えたい行動
「自分はダメだ」と全体を評価する代わりに、「次は相手の答えを聞いてから質問する」「帰る時刻を先に伝える」のように、変えられる行動を一つにします。改善点をいくつも増やして、次の会話を試験にしないことも意識してみましょう。
「嫌われていないか確認したい」ときの一言
会話全体の評価を何度も相手に尋ねなくても、自分が楽しかった点を具体的に伝える方法があります。
「今日はありがとう。おすすめの本の話を聞けて楽しかったです」
もう一度会いたいなら、相手が答えを選べる形で提案できます。
「今日話していた展示、私も気になっています。都合が合えば今度一緒に行きませんか?」
相手が断ったときは、好意のギャップを持ち出して説得しないようにします。「分かりました。返事をありがとう」と受け止め、連絡を続けるかどうかも相手の希望を尊重します。
具体的に相手を傷つけた心当たりがあるなら、お礼だけで済ませず、該当する言動について短く謝ることはできます。「嫌いになっていない?」への保証を繰り返し求めることとは分けて考えましょう。
研究を知っても、気まずさが消えないとき
「研究があるのにまだ不安な自分はおかしい」と責める必要はありません。研究が示すのは集団で観察された傾向であり、感情を消す約束ではありません。初対面の後に疲れたら、すぐに結論を出さず、予定を終えて休むことも選べます。
一人での反省を区切るなら、「次に変える行動を一つ決めたら、今日はメモを閉じる」など、自分で区切りをつくる方法があります。何分で切り替えるべきかという共通の正解はありません。
「これからもずっと人と話せない」と未来まで悲観してしまう場合は、感情予測と、未来のつらさの見積もり方も参考にしてください。こちらは将来の自分の感情を扱う概念で、相手からの評価を扱う好意のギャップとは異なります。
会話後の自己評価は、一つの見方として扱う
好意のギャップを知ると、「自分の反省と、相手の気持ちは同じ情報ではない」と立ち止まりやすくなります。失敗したと感じた一点から、会話全体や自分の価値まで決める必要はありません。
まずは、実際にあったこと、自分の感想、まだ分からないことを分けてみましょう。必要ならお礼や次の提案を一度伝え、相手の返事を尊重する。その積み重ねで、お互いの気持ちを少しずつ確かめていけます。
参考文献
Boothby, E. J., Cooney, G., Sandstrom, G. M., & Clark, M. S. (2018). The Liking Gap in Conversations: Do People Like Us More Than We Think? Psychological Science, 29(11), 1742–1756.