恋人に「一緒にいると楽しい」「そういうところが好き」と言われても、「気を遣っているだけでは」と考えてしまう。うれしいはずなのに、素直に受け取れないことがあります。
その理由を一つに決めることはできませんが、心理学では、自分についての見方と、相手からの肯定的な言葉が合わないときに起こる受け取りにくさが研究されています。
ここでは、恋人からの褒め言葉をどう捉えるかを扱った二つの研究を紹介します。「信じられないあなたが悪い」という話でも、相手の言葉を何でも信じるべきという話でもありません。
褒められたら、必ず安心できるとは限らない
自分を「面白くない」「好かれるところがない」と見ていると、相手の好意的な言葉が、その自己像とうまく合わないことがあります。「本気なのかな」「いつかがっかりされるのでは」と考えが広がる場合もあるでしょう。
ただし、これは一つの説明の可能性です。照れ、謙遜の習慣、褒められた内容への違和感、これまでの相手の行動なども関わり得ます。一度「そんなことない」と返しただけで、自尊心が低いと判断することはできません。
褒め言葉の「意味」を考えてもらった研究
Marigold、Holmes、Ross(2007)は、恋人から最近受けた褒め言葉を思い出し、どのように捉えるかを変える三つの実験を行いました。
自尊心が低い参加者に、褒め言葉の意味や、自分と関係にとっての重要性を説明するよう促すと、褒め言葉、自分自身、関係についての評価がより好意的になりました。2週間後にも効果が見られたと報告されています。
ポイントは、単に「褒められたから喜んで」と指示するのではなく、実際にもらった言葉にどのような意味があるかを捉え直したことです。
原著:Marigold, Holmes, & Ross(2007), Journal of Personality and Social Psychology
「抽象的に考えればよい」と一律には言えない
一方、Killeら(2017)は、自分についての否定的な考えと褒め言葉がぶつかる過程に注目しました。複数の方法で具体的または抽象的な考え方を促し、恋人の褒め言葉を思い出したり想像したりしてもらった研究です。
この研究では、具体的な考え方を促した場合に、自尊心の低い人と高い人との間で、相手から好意的に見られているという認識の差が小さくなりました。
2007年の研究とは、何に焦点を当て、どう考え方を促したかが異なります。「抽象的に考える方が正解」「具体的に考えれば必ず解決」といった単純な二択にはできません。
何をどのように考えるかが大切で、ただ考える量を増やせばよいわけではない、と受け止めてください。研究は相手の褒め言葉が真実かどうかを見抜く方法を示したものでもありません。
原著:Kille et al.(2017), Journal of Experimental Social Psychology
日常で振り返るなら、一つの言葉から
以下は研究の手順をそのまま再現するプログラムではなく、自分の受け取り方を整理する例です。嫌ではなかった褒め言葉を一つだけ選び、無理のない範囲で考えます。
まず、実際に言われた言葉を分ける
「一緒にいると楽しい」と言われたことと、「一生ずっと楽しませなければならない」という自分の予測は別です。相手が言っていない期待まで背負っていないか、分けてみましょう。
その言葉が、自分にとって何を意味したか
「話すのが上手でなくても、今の時間を楽しんでくれたのかもしれない」「自分では気づかなかった面を、相手は好ましく感じたのかもしれない」。その程度の、可能性を残した理解でもかまいません。
一つの言葉から「相手は絶対に離れない」と大きく一般化する必要はありません。受け取ることと、未来の保証にすることは違います。
考えるほど苦しくなるなら、そこで区切る
「本当である証拠」を探し続けて疲れる場合は、解釈を完成させようとしなくても大丈夫です。「今日はそう言ってくれた」という出来事として置き、普段の生活に戻る選択肢もあります。
「ありがとう」と、評価への全面的な同意は別
自分ではまだそう思えなくても、「そう言ってくれたんだね、ありがとう」と、言葉をかけてくれたことへのお礼を伝えることはできます。無理に「私も自分をそう思う」と合わせる必要はありません。
逆に、言われて嫌だった内容まで感謝する義務もありません。「外見のことはあまり触れられたくない」「その言い方は少し苦手」と、境界線を伝えられます。
場面別の返答を探している場合は、好きな人に褒められたときの返し方の記事も参考にしてください。
伝える側は、信じるよう迫らない
「褒めているのに、なぜ喜ばないの」と迫ると、受け取ることが義務になってしまいます。相手の反応を変えるために大げさな評価を重ねるより、自分が実際に感じたことを伝え、すぐに同意を求めない余地があります。
たとえば、「さっき最後まで話を聞いてくれて、私は安心した。そう感じたから伝えたかった」と、具体的な出来事と自分の感想を話せます。ただし、特定の言い方なら必ず相手が受け入れる、という保証はありません。
言葉と行動が食い違うときまで、自分を責めない
褒めた直後に無理な要求をする、普段は繰り返し侮辱する、断ると怒るといった行動があるなら、信じにくさをすべて自尊心の問題にしないでください。言葉の受け止め方と、現実の接し方の問題は分けて考える必要があります。
安心できない事情があるときに、「研究では褒め言葉を受け取ると良いらしい」と自分を説得し続ける必要はありません。困る行動について話したり、信頼できる人に相談したりすることもできます。
まとめ
恋人の褒め言葉を受け取りにくいとき、自分についての見方とのずれが関わる場合があります。研究では受け取り方への働きかけも検討されていますが、誰にでも同じ方法が合うとは言えません。
まずは、実際に言われたことと、そこから自分が予測したことを分けてみてください。好意を受け取る余地を残すことと、不快な言葉や困る行動に境界線を持つことは、両立できます。
参考文献
Marigold, D. C., Holmes, J. G., & Ross, M.(2007). More than words: Reframing compliments from romantic partners fosters security in low self-esteem individuals. Journal of Personality and Social Psychology, 92(2), 232–248. doi:10.1037/0022-3514.92.2.232
Kille, D. R., Eibach, R. P., Wood, J. V., & Holmes, J. G.(2017). Who can’t take a compliment? The role of construal level and self-esteem in accepting positive feedback from close others. Journal of Experimental Social Psychology, 68, 40–49. doi:10.1016/j.jesp.2016.05.003