両価性(アンビバレンス)とは、同じ相手や物事に対して、肯定的な気持ちと否定的な気持ちをあわせ持つことです。恋人について「一緒にいると楽しい。でも、約束を守ってもらえないのはつらい」と感じるように、好きな気持ちと不満は同時に存在し得ます。
一方の気持ちがあるから、もう一方が偽物になるわけではありません。ただし、複雑な気持ちを長く抱えるつらさも軽く扱わず、何を大切に思い、何に困っているのかを分けて考えてみましょう。
「好きか嫌いか」の一本の物差しだけでは表しきれない
恋人への評価を、好きから嫌いまでの一本の線だけで表そうとすると、「大切に思っているし、強い不満もある」という状態が見えにくくなります。
肯定と否定を別々に眺めると、「思い出を大切にしている」「会話は楽しい」といった側面と、「将来の希望が合わない」「一方だけが予定を合わせている」といった側面を、打ち消し合わずに扱えます。
両価性は、相手に関心が薄いことや、ただ返事を決めていないことと常に同じではありません。また、ここでの両価性は恋人への混ざった評価を扱う概念で、愛着スタイルの診断名として使っているわけではありません。
両価性とウェルビーイングを調べた研究
Zoppolatらの研究は、恋愛関係にある計1,134人のデータを含む四つの研究を通じて、複数の方法で測った両価性と、本人や関係のウェルビーイングとの関連を比較しました。ウェルビーイングは、本人や関係の良好さに関わる指標です。
質問紙で直接尋ねた両価性は、低いウェルビーイングと関連し、特に「相反する気持ちで葛藤している」という主観的な両価性で、関係上の指標との関連が強く見られました。一方、自動的な反応を測る課題など、別の測り方では同じように有意な関連が見られたわけではありません。原著は学術誌の論文ページで公開されています(オンライン公開2023年、巻号掲載2024年)。
これは、混ざった気持ちを持つと必ず不幸になる、という結論ではありません。測り方による違いがあり、関連から個人の関係の将来を予測することもできません。「迷いがあるなら即座に別れるべき」という判断基準として使う研究ではありません。
二つの欄をつくり、打ち消さずに書く
まず、次の二つを別々に書き出す方法があります。これは記事で提案する整理法で、研究で効果を検証した介入手順ではありません。
| 大切に思うこと・続けたいこと | 困っていること・変えたいこと |
|---|---|
| 話をしていると楽しい | 集合時間の変更が直前で困る |
| これまで助けてもらったことがある | 今は家事の負担が一方に偏っている |
| 一緒に過ごした思い出が大切 | 将来住みたい場所の希望が違う |
左の良い面を理由に、右の困り事を消す必要はありません。右があるから、左が全部嘘だったと考える必要もありません。項目の数や点数を比べて、自動的に結論を出す表にはしないでください。
感情、行動の希望、将来の判断を分ける
「好き」という感情、「予定の連絡方法を変えたい」という希望、「今後も交際するか」という判断は、関連していても同じ問いではありません。まず具体的な用件を相談し、その反応を見て考えたい場合もあります。
気持ちに言葉がつかない場合は、感情ラベリングの解説のように、「寂しいかもしれない」「残念な感じがある」と仮の表現から始めてもかまいません。
次に考えるのは、どの種類の困り事か
具体的な行動を相談できること
連絡の仕方、予定の分担、会う頻度などは、本人同士の希望と現実の条件を確認し、試す方法を決められる場合があります。相手が協力する意思を持ち、合意したことが実際に変わるかも判断材料になります。
希望が違い、どちらも譲りにくいこと
住む場所、子どもを持つかなど、どちらかが正しいと決められない希望の違いもあります。好きな気持ちがあっても、望む生活が一致しないことはあり得ます。「話せば必ず折り合える」と決めつけず、双方が選べることを確認します。
尊重や安全が損なわれていること
拒否を無視される、脅される、行動を制限される場合は、「でも優しい日もある」という肯定的な面だけで問題を打ち消さないようにしてください。自分を守る選択や、第三者への相談を考えてよい状況です。
相手に伝えるなら、「好き」と「困っている」を両方言える
「一緒にいる時間は大切に思っている。ただ、直前に予定が変わると困ることが続いている。次からの連絡方法を相談したい」
良い面を先に述べるのは、相手を必ず納得させるテクニックではありません。自分にとって両方が本当なら、そのまま伝える選択があるということです。無理に褒め言葉を添える必要もありません。
「気持ちはまだ整理できていない。でも、今の分担が負担なことは分かっているので、そこは話したい」
「交際を続けるか今すぐ答えて」と迫られる場面でも、答えを出せないことと、具体的な問題を話せないことは別にできます。ただし、相手も待つかどうかを選ぶ立場にあり、期限や今後の連絡は互いに相談する必要があります。
「本当は好きではないのでは」と考え続けるとき
気持ちを何度も点検しても答えが増えないなら、確認する問いを変えられます。「好きの量は何点か」ではなく、「今困っている行動は何か」「変化を見て考えたいのか」「一人で考える時間が必要か」と、次にできることを選びます。
両価性をなくしてからでないと行動できないわけではありません。迷いを残したまま相談する、信頼できる人へ話す、専門家に整理を手伝ってもらうこともできます。
関係を育てたい気持ちと、耐え続けることの違いは、運命信念・成長信念の記事でも扱っています。取り組むなら、自分だけの努力ではなく、相手の協力と実際の変化を見る視点も大切です。
複雑な気持ちを、そのまま考える材料にする
両価性という言葉は、好きか嫌いかを無理に一つへ決める前に、混ざった評価を理解するために使えます。感情の存在と、その関係で何を選ぶかは分けて考えられます。
大切な面と、困っている面を両方残し、次に確認したいことを一つ選ぶ。すぐに迷いが消えなくても、自分の希望や負担を具体的にすることから始めてみてください。
参考文献
Zoppolat, G., Righetti, F., Faure, R., & Schneider, I. K. (2024). A Systematic Study of Ambivalence and Well-Being in Romantic Relationships. Social Psychological and Personality Science, 15(3), 329–339.(オンライン先行公開2023年)