感情ラベリングとは、感じていることや、感情を引き起こすものに「悲しい」「不安」「うれしい」などの言葉をつけることです。恋愛のモヤモヤを整理するときも、「相手が悪い」という評価と「自分は寂しい」という感情を分ける手がかりになります。
ただし、名前をつければ必ず気分が落ち着く、という方法ではありません。研究で使う課題や測る指標によって結果は異なります。ここでは、研究の意味を確認したうえで、無理なく気持ちを言葉にするための例を紹介します。
感情ラベリングと、人へのラベル貼りは違う
「今は不安を感じている」は、そのときの状態の説明です。一方、「私は面倒な人間だ」「相手は冷たい人だ」は、人の性格や価値についての評価です。感情を表現したつもりで、自分や相手の人格を決めつけていないかを分けて考えてみましょう。
また、「相手に見捨てられた」は、事実や解釈を含む文章です。そのときの気持ちを探すなら、「悲しい」「怖い」「寂しい」などが近いかもしれません。どの言葉が合うかは、本人が確かめてよいことです。
当サイトのラベリング効果の記事では、人への評価や呼び方に関わる話を扱っています。今回の感情ラベリングとは、同じ「ラベリング」という言葉でも焦点が異なります。
「言葉にすると脳が落ち着く」は、どこまで言える?
Liebermanらの2007年の研究では、ネガティブな感情刺激に言葉をつける課題中の脳活動をfMRIで調べました。他の処理条件と比べ、扁桃体などの反応が小さくなる結果が報告されています。これは、感情と言語の関係を考える基礎研究です。原著論文の抄録で内容を確認できます。
この結果から、「恋人に腹が立ったとき、不安と言えば必ず収まる」とまではいえません。実験室で画像などを使う課題と、現実の口論は条件が違います。また、脳活動の変化と、本人が自覚する気分の改善、関係の問題の解決は同じ指標ではありません。
自分で言葉を考える場合も、結果は一様ではない
藤井・中川の2025年の研究では、ポジティブ・中性の画像を用い、自分で感情の言葉を考える方法などを検討しています。主観的な感情と瞳孔径を測り、単に画像を見る場合より、主観的な感情が強まる結果も報告されました。詳しくはJ-STAGEの原著抄録を参照してください。
この研究も恋愛の不安への効果を直接調べたものではありません。「言語化は常に感情を弱める」とまとめず、何に、どう言葉をつけ、何を測っている研究なのかを見ることが大切です。
恋愛のモヤモヤを書き出すなら、三つに分ける
以下は、考えを整理するための記事独自の手順です。元の実験と同じ効果を得るための再現手順や、治療の方法ではありません。
1.起きたことを、短く書く
例:「今日の待ち合わせが、出発直前に変更された」。まず出来事を一行にします。「私を大事にしていない」と相手の意図まで書くより、今分かっていることにとどめます。
2.近い感情を、一つか二つ選ぶ
「がっかり」「戸惑い」「寂しい」「怒り」「不安」などから、自分の感じ方に近い言葉を探します。一つに決められなければ、「怒っているし、少し悲しい」のように複数でもかまいません。
うまく見つからないときは、「胸がざわざわする」「うまく説明できないモヤモヤがある」と書いて止めることもできます。感情語を正確に当てる試験ではありません。
3.どうしたいかを、感情とは別に書く
例:「変更が分かった時点で教えてほしい」。これは気持ちの名前ではなく、希望や行動の相談です。感情を言葉にした後にも、具体的な用件は残ります。
出来事:出発直前に予定の変更を知った。
感情:戸惑った。準備が無駄になったようで残念だった。
希望:次は分かった段階で連絡してほしい。
「モヤモヤ」の中身を探す例
表は候補の例です。出来事から、誰もが同じ感情になると決まるわけではありません。
| 場面 | 感情の候補 | 次に確認したいこと |
|---|---|---|
| 約束を断られた | 残念、寂しい、ほっとした | 自分は再調整を望むのか |
| 返事を待っている | 不安、焦り、いら立ち | 返答が必要な期限はあるか |
| 恋人が友人と楽しそうに話している | 寂しさ、羨ましさ、安心 | 実際に困る行動があったか、自分の希望は何か |
| 大切な話を聞いてもらえた | 安心、うれしさ、感謝 | どの反応が助けになったか |
ネガティブな感情だけでなく、うれしかったことにも言葉をつけられます。「話の途中で急がず待ってくれたのがうれしかった」のように、助かった行動を伝える使い方もあります。
相手に話すときは、感情を行動の命令にしない
「私は寂しい」と伝えることと、「だから今すぐ予定を全部取り消して」と相手に要求することは別です。自分の気持ちは大切にしながら、希望の実現は相談できます。
「最近二人で話す時間が少なくて、寂しく感じている。今週どこかでゆっくり話せる時間を相談できる?」
一方、相手が気持ちを話しているときに、「それは怒りではなく嫉妬だよ」と訂正する必要はありません。「その言葉が近いんだね」「ほかにも混ざっている感じはある?」と、本人の表現を尊重する方法があります。
気持ちを口にしても伝わったか分からない場合は、透明性の錯覚と、理解を確認する会話例も参考になります。
言葉にすると、かえってしんどくなる場合
書くほど同じ場面が浮かび、苦しさが増すなら、その場ではメモを閉じてもかまいません。「整理しきるまで続ける」を目標にせず、水を飲む、休む、信頼できる人に一緒にいてもらうなど、今必要なことを選んでください。
感情を言葉にできない日があっても、能力や誠実さの不足とは決まりません。相手にも、すぐに感情名や理由を説明するよう求めないことが大切です。
つらさが続いて生活に支障がある場合は、自己整理だけを続けず、医療機関や心理相談の専門家に状態を伝えましょう。感情ラベリングは、必要な支援の代わりになる万能な方法ではありません。
一つの言葉が見つかれば、そこで止めてもいい
感情ラベリングを日常に取り入れるなら、「今は少し寂しいかもしれない」と、仮の言葉を置くところから始められます。気持ちが変わったら、表現も変えてかまいません。
感情の名前、出来事の解釈、これからの希望を分けると、自分が相談したいことを具体的にできます。落ち着くことを義務にせず、今の自分に無理のない範囲で使ってみてください。
参考文献
- Lieberman, M. D., et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421–428.
- 藤井亮孝・中川敦子(2025)ポジティブな感情のラベリングに関する基礎的研究―自己生成型におけるラベリングの対象に注目して―.感情心理学研究,33(1),1–14.