恋人が喜んでくれると「自分には価値がある」と感じ、少しそっけない日は「自分はだめな人間だ」とまで思ってしまう。恋愛の出来事と、自分全体への評価が強く結びつくことがあります。
心理学では、こうした結びつきを考える概念に関係に随伴する自尊心(relationship-contingent self-esteem:RCSE)があります。「随伴する」とは、ここでは恋愛関係の出来事や成り行きに応じて、自分の価値の感じ方が左右される、という意味です。
この記事ではRCSEを研究上の概念として紹介します。恋愛で落ち込むこと自体を異常としたり、読者や恋人に病名を付けたりするためのものではありません。
自尊心の「高さ」と「よりどころ」は違う
自尊心というと、「自信が高いか低いか」を想像するかもしれません。RCSEが注目するのは、それだけではなく、自分への評価が恋愛の結果にどれくらい結びついているかです。
たとえば、恋人とけんかして「寂しい」「嫌な言い方だった」と感じることと、「こんなけんかをする自分には価値がない」と全体を否定することは同じではありません。後者のように、関係の出来事が自分全体の評価へ広がるところが、この概念を理解する手がかりになります。
一時的に明るく自信があるように感じていても、それが「恋人に認められているからだけ」と強く結びついている場合はあり得ます。外から見える自信の有無だけでは判断できません。
RCSEの研究で分かったこと
Kneeら(2008)は、四つの研究を通じてRCSEを測る指標と、恋愛関係での出来事や自己評価との関連を検討しました。質問への回答だけでなく、日常の出来事やその時々の感情・自尊心を記録する方法も使っています。
日記を用いた研究では、RCSEが高い人ほど、恋愛の出来事が良いものか悪いものかと、自尊心の変化との結びつきが強く見られました。その時々の感情を通じて自尊心に関わる、というモデルも支持されています。
また、カップルを対象とした研究では、双方のRCSEが高い二人は、関係へのコミットメントを強く感じていましたが、満足度や親密さまで高いわけではありませんでした。
原著:Knee, Canevello, Bush, & Cook(2008), Journal of Personality and Social Psychology
「大切に思う」と「自己価値を預ける」は同じではない
関係を続けたい気持ちが強いことと、心地よくつながっていることは、重なる部分があっても別です。「別れたくない気持ちが強いから、二人の関係は良いはず」と単純には判断できません。
一方で、恋人を大切に思う人を一律にRCSEが高いとすることもできません。研究が扱うのは、自分の価値が関係の成否に条件づけられる程度であり、愛情の大きさそのものではないためです。
日常では、どんな考え方として現れる?
次は概念を理解するための例で、診断項目ではありません。当てはまる数で「依存度」を判定する使い方はできません。
- 楽しいデートをしたから「今日は自分に価値がある」と思う
- 意見が合わないと「恋人としてだけでなく、人として失格だ」と感じる
- 相手が疲れているだけかもしれない場面でも、自分の価値の低さの証拠として受け取る
- 関係を良くする相談より、「自分がだめではない証拠」を得ることに気持ちが向く
ただし、こうした反応だけで理由を決めつけることはできません。実際に相手から繰り返し否定されている、約束が守られていない、疲れや負担が重なっているなど、状況にも目を向ける必要があります。
「出来事」「気持ち」「自分への判定」を分けてみる
ここからはRCSEを改善する効果が、この論文で確認された手順ではありません。考えを整理したいときに使える、書き分けの例です。
| 分けて書くこと | 例 |
|---|---|
| 確認できる出来事 | 会う予定が変わり、次の日程はまだ決まっていない |
| 今の気持ち | 残念、寂しい、先が分からず不安 |
| 自分に下した判定 | 自分には会う価値がないと思ってしまった |
| 実際に確かめたいこと | 予定変更の事情と、次に相談できる時期 |
「自分には価値がない」という判定は、予定が変わったという事実そのものではありません。同時に、寂しい気持ちを無理に消す必要もありません。
「予定が変わって残念だった。次に会う日をいつごろ相談できそう?」のように、気持ちと確認事項を分けると、相手に自分全体の価値を判定してもらおうとせず、具体的な困りごとを扱えます。
恋愛以外にも、自分の生活を置く場所を残す
恋人を大切にしながら、友人と話す時間、学び、仕事、趣味、休む時間などにも関わる余地を残すことはできます。恋愛の出来事だけで、その日の自分すべてを採点しないための考え方です。
ただし、「仕事でも成果を出さないと価値がない」と、採点の対象を増やすことが目的ではありません。うまくできたかどうかにかかわらず、休息や小さな楽しみを持つことも含めて考えてみてください。
恋人に助けを求めること自体は悪いことではありません。依存の逆説の記事では、頼れる安心と自律的な行動の両立を扱っています。
相手に「あなたはRCSEが高い」と言わないために
研究用語は、相手の訴えを片づけるラベルにもなり得ます。「自尊心の問題だから気にしすぎ」と返すと、実際の不満や傷つきを聞けなくなるかもしれません。
話すなら、「昨日の予定変更で、自分が大切にされていないように感じたんだね。事情と今後のことを話そう」のように、具体的な出来事に戻れます。支える側も、毎回自分の都合を変えて安心の証拠を示し続ける必要はなく、応じられる範囲を伝えられます。
自己否定が長く続き、生活への負担が大きい場合には、一人で考え方を直そうとせず、心理職などに相談することも選択肢です。
まとめ
RCSEは、自尊心が高いか低いかに加えて、恋愛の出来事と自分の価値がどれほど結びついているかを考える視点です。関係への強い思いだけでは、満足や親密さまで分かりません。
恋愛で傷ついた気持ちを否定せず、起きたことと、自分全体への判定を少し分けてみてください。相手との具体的な問題を扱うことと、自分の価値を一つの関係だけで決めないことは、両立できます。
参考文献
Knee, C. R., Canevello, A., Bush, A. L., & Cook, A.(2008). Relationship-contingent self-esteem and the ups and downs of romantic relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 95(3), 608–627. doi:10.1037/0022-3514.95.3.608