「長く付き合っているから、何を考えているか分かる」。そう思って声をかけたら、「そういう意味じゃない」と返されたことはありませんか。
相手を理解したい気持ちと、実際に理解できているかは、同じではありません。心理学の共感的正確さ(empathic accuracy)は、人が相手の考えや感情を、どの程度正しく推測できるかを扱う概念です。
仕草から本音を見抜く技術というより、「自分の推測と、相手本人の経験は合っているのか」と考える視点として紹介します。
共感的正確さは、どうやって調べる?
代表的な方法の一つでは、二人の会話を録画し、あとでそれぞれが映像を見ながら、ある時点で何を考え、どう感じていたかを記録します。同時に、相手がそのとき何を考え、感じていたかも推測してもらいます。
そのうえで、推測と本人の報告がどれくらい合っているかを比べます。「自分は人の気持ちがよく分かると思う」という自己評価だけではありません。
ただし、本人の報告にも、思い出し方や言葉にする難しさが関わります。測定された正確さは、相手の心を完全に読み取れた証明ではなく、その方法と場面で、本人の報告にどれくらい近かったかとして受け止める必要があります。
共感、同意、感情の共有との違い
相手の気持ちを理解することと、同じ意見になることは別です。自分と違う考えでも、「相手はそういう理由で不安を感じている」と分かることはあります。
| 分けて考えたいこと | 例 |
|---|---|
| 相手の感情の推測 | 予定が決まらず、不安なのかもしれない |
| 自分が感じていること | 自分はまだ予定を決めなくても平気 |
| 相手への賛成・反対 | 今日決めるのは難しいが、不安な理由は聞きたい |
| 理解できたかの確認 | 不安なのは日程より、直前まで連絡がないことだった? |
自分が同じ気持ちになるとは限らなくても、相手の経験を確かめることはできます。逆に、自分も悲しくなったからといって、相手の悲しみの理由まで正確に理解できたとは限りません。
恋愛の満足度との関連は「小さいがある」
Senedら(2017)は、二者のやり取りを用いて共感的正確さを測った21研究、計2,739人の結果をまとめました。共感的正確さと関係満足度には、小さい正の関連が見られました(相関係数r=.134)。
相手のネガティブな感情についての正確さは、ポジティブな感情についての正確さより、満足度との関連が強い結果でした。ただし、「つらい気持ちを当てれば満足度が上がる」という介入の効果を示したわけではありません。
また、小さい関連は、正確さだけで満足度をほぼ説明できるという意味ではありません。関係の良さには、ほかのさまざまな経験や条件も関わります。
原著:Sened et al.(2017), Journal of Family Psychology
正確に分かるほど、いつでも心地よいわけではない
Simpson、Oriña、Ickes(2003)は、夫婦が問題を話し合う場面を調べました。相手の考えや感情が関係を脅かす内容だったとき、より正確に推測できた人ほど、話し合い前後の主観的な親密さが低下する傾向がありました。脅威がない内容では、逆の関連が見られています。
これは「分からない方が幸せだから、問題を隠そう」という勧めではありません。相手の気持ちを理解することと、その場ですぐ心地よくなることは別の結果だということです。
厳しい内容を理解したからこそ、今後について相談したり、距離を取ったりする判断が必要になる場合もあります。この研究から、長期的に知らない方がよいとまでは言えません。
原著:Simpson, Oriña, & Ickes(2003), Journal of Personality and Social Psychology
日常では「推測を置いて、修正してもらう」
次の言い方は、上の研究で効果を検証したトレーニングではありません。推測を事実として押しつけないための会話例です。
- 「怒っているんでしょ」ではなく、「今、少し困っているように見えた。合っている?」
- 「私と同じ気持ちだよね」ではなく、「私は寂しかった。あなたはどう感じた?」
- 「本当は会いたくないんだ」ではなく、「予定を決めにくい理由を、話せる範囲で教えてもらえる?」
違うと言われたら、推測を守るより修正する余地を残します。「怒っているのではなく、疲れて考えがまとまらなかったんだね」と、相手の言葉を確かめられます。
「分かった」あとも、必要な対応は別に聞ける
寂しい気持ちは理解できても、今ほしいのが慰めなのか、予定の調整なのかは別です。「聞いてほしい? それとも次の予定を一緒に考えたい?」と、必要なことまで確認できます。
「気持ちを理解してくれたら、必ず要求に応じるはず」とする必要もありません。理解と、引き受けられる行動の範囲は分けて相談できます。
察することを、二人の義務にしない
「好きなら言わなくても分かる」「本音を全部説明して」と要求し続けると、理解すること自体が試験のようになってしまいます。言葉にする時間が必要なことや、今は話したくないこともあります。
理解したいときにも、スマートフォンを無断で見たり、返答を迫ったりする必要はありません。「今は話しにくければ、あとで相談しよう」と、話せる条件を整えることもできます。
「自分の気持ちは自然に伝わっているはず」と感じる心理は、透明性の錯覚の記事でも説明しています。
まとめ
共感的正確さは、相手の考えや感情をどれくらい正しく推測できるかという研究上の概念です。関係満足度との関連はありますが、それだけで良い関係が決まるわけではなく、理解した内容がつらい場合もあります。
日常では「分かったはず」で止めず、本人が修正できる形で尋ねてみてください。同じ気持ちになることや、すべてに同意することを求めずに、相手が経験していることを知ろうとする余地を残せます。
参考文献
Sened, H., Lavidor, M., Lazarus, G., Bar-Kalifa, E., Rafaeli, E., & Ickes, W.(2017). Empathic accuracy and relationship satisfaction: A meta-analytic review. Journal of Family Psychology, 31(6), 742–752. doi:10.1037/fam0000320
Simpson, J. A., Oriña, M. M., & Ickes, W.(2003). When accuracy hurts, and when it helps: A test of the empathic accuracy model in marital interactions. Journal of Personality and Social Psychology, 85(5), 881–893. doi:10.1037/0022-3514.85.5.881