「恋人と楽しい時間を増やしたい」と「嫌われないように失敗を防ぎたい」。どちらも関係を大切にしたい気持ちから生まれますが、注目している方向は異なります。心理学では、望ましい結果へ向かう「接近目標」と、望ましくない結果を避ける「回避目標」を区別します。
これは、積極的な人と消極的な人を分ける性格診断ではありません。同じ人の中に両方の目標があり得ます。この記事では恋愛関係の研究と、「失敗しないこと」だけに気持ちが向くときの整理の仕方を紹介します。
「何を増やしたいか」と「何を避けたいか」
接近目標は、親しさや楽しい経験など、得たい肯定的な結果に焦点を当てます。回避目標は、対立や拒絶など、起こしてほしくない否定的な結果を防ぐことに焦点を当てます。
| 場面 | 接近目標の例 | 回避目標の例 |
|---|---|---|
| デート | 二人で楽しめる経験をしたい | 退屈だと思われたくない |
| 会話 | お互いの最近の気持ちを知りたい | 余計なことを言って嫌われたくない |
| 予定の相談 | 無理なく会える形を見つけたい | もめることだけは避けたい |
「接近」は相手との距離を無理に縮める行動、「回避」は会うのを避ける行動そのものを意味するわけではありません。同じ行動でも、どんな結果を目指しているかを考える区分です。また、愛着スタイルの「回避型」とも別の概念です。
恋愛関係の研究で見られた関連
Impettらによる2010年の研究では、二つの日常経験の調査と一つの実験室での研究を使い、交際中のカップルの目標と関係満足度などを調べました。接近目標は日々や時間経過に伴う満足度の高さと、回避目標は時間経過に伴う満足度の低下と関連していました。
接近目標と日々の満足度の関連には肯定的な感情が関わり、研究の一つでは、相手の必要への応答も関連する過程として検討されています。本人だけでなく相手側の目標にも注目した点が特徴です。
ただし、これは「目標の言い方を変えれば必ず関係が改善する」と直接証明したものではありません。関係が良好だから接近的な目標を持ちやすい可能性なども考える必要があります。回避目標がある自分や恋人を、関係を壊す人だと決めつけないでください。
失敗を避けたい気持ちを、無理に消さない
約束を忘れないようにしたい、相手を傷つける言い方は避けたい、と考える場面もあります。「避けたいことがある=悪い」と単純化すると、かえって不安になるかもしれません。
大切なのは、望むことを考える余地もあるかどうかです。「嫌われないように」だけで行動を決めていて疲れるなら、「自分はどんな時間や関わりを増やしたいのか」も一緒に考えてみます。
一つの場面を、三つの問いで整理する
以下は考え方を日常に応用するための例です。この問いかけ自体の効果を検証した手順ではなく、相手の反応を保証する方法でもありません。
今、何が起こるのを怖がっている?
「返事が気に入られず嫌われること」「予定の希望を言うと面倒だと思われること」など、気にしている結果を具体的にします。怖い気持ちが出たことを責める必要はありません。
本当は、何ができるとうれしい?
例えば「自然な会話を楽しみたい」「疲れない頻度で会いたい」「相手の考えを知りたい」と、増やしたい体験を考えます。相手に必ず好きになってもらうことではなく、自分が大切にしたい関わり方にも目を向けます。
自分が選べる、小さな行動は?
「相手の話に一つ質問する」「会える日を二つ提案する」「今日は疲れていると伝える」などです。楽しい経験を増やしたい目標でも、毎回相手に合わせる必要はありません。
例:デートを完璧にしようとして疲れるとき
「沈黙を一秒も作らない」「必ず盛り上げる」と自分に課していると、相手と過ごす時間よりも、失敗の監視に注意が向くことがあります。そんなときは「今日は好きな食べ物の話を一つ聞きたい」「景色を一緒に楽しみたい」など、実行可能な楽しみ方を考えることもできます。
ただし、これで必ず緊張が消えるわけではありません。会話の間を採点しすぎないための視点は、返答時間とつながりの研究でも紹介しています。
安全や境界を守ることは、優先してよい
不快な誘いを避けたい、望まない接触を断りたい、傷つく行動から距離を取りたいという希望は、守ってよいものです。接近目標の話を「怖がらず相手に合わせるべき」という圧力に変えないでください。
目標を前向きに言い換えても、相手の問題行動がなくなるとは限りません。研究上の平均的な関連と、あなたが今いる状況の判断は分けて考えることが大切です。
恋人の目標を、勝手に決めない
「あなたは回避目標だから関係が悪い」と診断する代わりに、「今の予定の決め方で、何が心配?」「どんな過ごし方なら楽しめそう?」と本人に確認します。二人が望むものが違うなら、その違いも相談の材料になります。
自分で選べる感覚とつながりを両方考えたいときは、自己決定理論と、三つの基本心理欲求も参考になります。
参考文献
- Gable, S. L. (2006). Approach and avoidance social motives and goals. Journal of Personality, 74(1), 175–222. 論文を読む
- Impett, E. A., Gordon, A. M., Kogan, A., Oveis, C., Gable, S. L., & Keltner, D. (2010). Moving toward more perfect unions: Daily and long-term consequences of approach and avoidance goals in romantic relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 99(6), 948–963. 論文を読む
避けたいことに気づきながら、増やしたいことも一つ考える。二つの目標の違いを、関係を採点するためではなく、自分の望みを見つける手がかりにしてみてください。