実行意図とは、「もしこの場面になったら、この行動をする」と、状況と行動を結びつけて決める計画です。英語ではimplementation intentionsと呼ばれ、if-thenプランとも表現されます。「もっと感謝を伝えたい」と思っていても忘れてしまうとき、伝えるきっかけを具体的にする考え方として使えます。
たとえば「恋人に助けてもらってありがたいと感じたら、その場で助かったことを一つ言葉にする」という計画です。相手を動かす駆け引きではなく、自分が望む行動を思い出すための準備として考えてみましょう。
目標と実行意図は、何が違う?
「感謝を忘れない」「いい恋人になる」は、目指す方向を示す目標です。しかし、そのままでは日常のどの場面で何をするかが決まっていません。実行意図では、行動を始める合図と、実行できる行動を組み合わせます。
| 目標だけの表現 | 状況と行動を結びつけた例 |
|---|---|
| もっと感謝する | 助けてもらってありがたいと思ったら、何が助かったかを一言伝える |
| お礼を後回しにしない | 帰宅後に今日のお礼を思い出したら、短いメッセージで伝える |
| 二人の時間を大切にする | 次の休日の予定を確認するときに、一緒に過ごしたい時間も相談する |
どれも記事で作成した例です。特定の言い回しを使えば関係が良くなるという、研究で検証済みの処方ではありません。
恋人への感謝を計画した研究
Changらの2022年の研究では、交際中のカップルを対象に、5週間の日々の行動を調べるフィールド実験を行いました。一方の条件では、カップルの一人が、感謝を感じた場面でそれを表すためのif-thenプランを作成しました。
計画を作る条件に無作為に割り当てられた人は、対照条件と比べ、介入前から介入後に感謝を伝える行動が増え、二人が同じ場所で過ごす時間も増える結果が報告されています。研究の詳細はScientific Reportsの原著論文、抄録はPubMedで確認できます。
ただし、これは限られた期間・参加条件での結果です。同じ場所で過ごす時間が増えることと、長期の関係満足度や別れにくさが改善することは同じではありません。毎日長く一緒にいればよい、感謝を増やせばどんな関係も修復できる、と読み替えないことが大切です。
また、以下の作り方は研究の発想を日常で考えるための提案で、元の実験の全手順を再現するものではありません。
if-thenプランを一つ作る三つの手順
1.自分が望む行動を選ぶ
最初は「助かったときに、ありがとうを伝える」など、一つに絞ります。「恋人を絶対に怒らせない」は、相手の反応まで支配する目標なので、自分が実行できる行動に置き換えましょう。
そもそも感謝を伝えたいと思っていない場面で、無理に気持ちをつくる必要はありません。不満や疲れがあるなら、その相談を先にすることも選べます。
2.気づきやすい合図を選ぶ
「いつか」「余裕ができたら」では、その瞬間が分かりにくくなります。自分が日常で気づける出来事を考えます。
- 相手が重い荷物を持ってくれて、助かったと感じたとき。
- 話を急がずに聞いてもらい、ほっとしたとき。
- 帰宅して、その日の助かった出来事を思い出したとき。
合図を増やしすぎると、生活のあらゆる場面を点検するようになりかねません。まず一つで十分です。
3.短くできる行動を結びつける
「話を聞いてもらって助かったと感じたら、『最後まで聞いてくれてありがとう』と伝える」
手の込んだ贈り物や長文を、毎回の条件にしなくてもかまいません。「相手が何をしてくれたか」と「自分にどう役立ったか」を一つずつ伝えると、内容を具体的にできます。
感謝の言葉は、相手に合わせて変えてよい
計画があっても、毎回同じ言葉を機械的に繰り返す必要はありません。以下のように、その場面に合う短い表現を選べます。
| 場面 | 伝え方の例 |
|---|---|
| 迎えの予定を調整してくれた | 「時間を調整してくれてありがとう。移動が楽になって助かった」 |
| 忙しい日に食事を用意してくれた | 「用意してくれてありがとう。今日は休む時間ができてうれしい」 |
| 話すのを待ってくれた | 「急がず待ってくれてありがとう。自分の考えを話しやすかった」 |
| 断る意思を尊重してくれた | 「今日は休みたいと言ったことを受け止めてくれてありがとう」 |
お礼を言ったからといって、次も同じことをしてもらう権利が生まれるわけではありません。相手の手助けが続いている場合は、感謝と一緒に、負担の分担も見直しましょう。
できなかった日は、性格より計画を見直す
一度忘れたから「自分は感謝できない人だ」と結論づける必要はありません。合図に気づかなかったのか、その場で言えなかったのか、行動が大きすぎたのかを分けてみます。
- 合図が曖昧なら、日常で気づきやすい出来事に変える。
- その場で言えなければ、思い出したときに短く伝える方法にする。
- 疲れているなら、長文をやめ、一言にする。
見直す日は二人の都合や自分の余裕で決めてかまいません。「何日続けば必ず習慣になる」という日数は、この記事では設定しません。
実行意図で相手の行動を管理しない
「私がお礼を言ったら、相手も優しくしてくれるはず」は、自分の行動の計画に、相手の反応への期待が混ざっています。お礼への返し方は相手が選ぶことであり、期待通りの反応がないたびに採点しないようにしましょう。
同じように、相手へ「毎日この時間に必ず感謝して」と一方的に義務づけると、本人の望む計画とは異なります。二人で取り入れるなら、それぞれがやってみたいか、負担はないかを相談してください。
気持ちや意図が相手に伝わっていると思い込みやすい点については、透明性の錯覚の解説も参考になります。感謝の回数を増やす前に、何が助かったのかを言葉にすることもできます。
「もっと大切にしたい」を、小さな一行にする
実行意図は、目標を実際の場面とつなぐ計画です。恋人への感謝なら、「ありがたいと感じたら、助かったことを一つ伝える」と書いてみるところから始められます。
相手の愛情を試すためではなく、自分が伝えたいことを伝えるために使う。できなければ計画を調整する。自分にも相手にも無理のない行動を一つ選んでみてください。
参考文献
Chang, Y.-P., Way, B. M., Sheeran, P., Kurtz, L. E., Baucom, D. H., & Algoe, S. B. (2022). Implementation intentions to express gratitude increase daily time co-present with an intimate partner, and moderate effects of variation in CD38. Scientific Reports, 12, 11697.