不安がなくなるまで話せない。腹が立つから、つい強い言葉を送ってしまう。恋愛では、気持ちに行動を左右される場面があります。そんなときの考え方の一つが「心理的柔軟性」です。
心理的柔軟性とは、今の状況や自分の体験に気づき、大切にしたいことに沿って行動を続けたり、変えたりする力を指します。いつも穏やかでいることや、相手に合わせ続けることとは異なります。この記事では、恋愛との関連を調べた研究と、日常に取り入れる際のヒントを紹介します。
心理的柔軟性は「何でも受け入れる性格」ではない
心理的柔軟性は、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)で重視される概念です。ここでいう「受け入れる」は、不安や怒りなどの内的な体験があることを認めるという意味です。相手の要求や不適切な扱いに従うことを意味しません。
例えば「緊張している。でも、互いを尊重して話すことは大切にしたい」と気づき、落ち着いて話せる時間を提案する。あるいは、疲れ切っていることに気づき、今日は休んで明日に話し合いを移す。このように、状況に応じた選択を考えます。
感情・考え・行動を分けてみる
| 分けて見るもの | 例 |
|---|---|
| 感情 | 不安、寂しさ、腹立たしさ |
| 浮かんだ考え | 「大事にされていないのかもしれない」 |
| 選べる行動 | 希望を伝える、確認する、休む、距離を取る |
気持ちが出てくることと、すぐその通りに動くことの間に、選択肢を置くイメージです。考えの内容が正しいかを毎回論破する必要も、感情を無理に消す必要もありません。
恋愛との関係は、研究でどう調べられている?
DaksとRoggeによる2020年のメタ分析は、家族・恋愛関係を扱った174本の研究、203の独立したサンプルを統合しました。参加者は合計43,952人ですが、すべてが恋人同士の研究だったわけではなく、家族や親子関係の研究も含まれています。
恋愛関係では、心理的な柔軟性の乏しさのさまざまな側面が、本人やパートナーの低い関係満足度、少ない情緒的な支え、否定的な葛藤などと関連していました。
ただし、関連があることは「柔軟性を高めれば必ず恋愛が改善する」ことの証明ではありません。測定された側面や対象者は研究ごとに違い、十分な研究数がなく統合できなかった側面もあります。相手の行動や生活環境なども関係に影響するため、うまくいかない原因を一人の心の持ち方だけに求めないことが大切です。
恋愛で試すなら、四つの問いから
以下は考え方を日常に応用するための例です。効果が検証された独自の診断や治療手順ではありません。負担の少ないところから試してみてください。
1.「今、何が起きている?」
起きた出来事と、自分が足した解釈を分けます。「予定が延期になった」は出来事。「もう会いたくないのかも」は解釈です。解釈を否定するためではなく、まだ確認できていない部分を見つけるために分けます。
2.「どんな気持ちや考えがある?」
「寂しい」「期待していた分、残念だ」と短く言葉にします。「こんなことで寂しくなるべきではない」と気持ちを裁く代わりに、今あるものとして気づいてみます。言葉が見つからないときは、感情ラベリングの考え方と注意点も参考になります。
3.「この場面で、何を大切にしたい?」
例えば「率直に希望を伝えたい」「互いの予定を尊重したい」「自分の休息も守りたい」などです。「相手から絶対に嫌われない」は自分だけで決められませんが、自分がどう関わりたいかは考えられます。
4.「今できる小さな行動は?」
「楽しみにしていたから残念。次に会える日を相談したい」と伝える、今日の予定を一つ入れ直す、疲れているなら返信を少し待つ。相手をコントロールする方法ではなく、自分が選べる行動に落とし込みます。
「柔軟でいよう」が我慢になっていないか
柔軟性は、常に譲歩することではありません。大切な約束が何度も破られているなら、困っている点を伝え、具体的な変更を求めることも選択肢です。境界を示したり、交際を見直したりすることも、自分の大切にしたいことに沿う場合があります。
「怒らない自分にならなければ」と感情を押し込める必要はありません。また、暴力や脅し、同意を無視した行動を、あなたの柔軟性で解決すべき問題にしないでください。安全や生活への影響がある場合は、一人で抱えず信頼できる人や専門家に相談することが大切です。
できたかどうかは「不安が消えたか」だけで測らない
気持ちが残っていても、希望を一つ伝えられた、強い口調になる前に休憩できた、自分の限界を尊重できた。そのような行動も振り返りの材料になります。逆に、一度うまくできなかったことから「柔軟性がない人間だ」と決める必要はありません。
気持ちに飲み込まれて考えにくいときは、自己距離化を使って、出来事を少し離れた視点で書く方法を補助的に使うこともできます。どの方法も、自分を追い立てる課題にしないようにしましょう。
参考文献・資料
- Daks, J. S., & Rogge, R. D. (2020). Examining the correlates of psychological flexibility in romantic relationship and family dynamics: A meta-analysis. Journal of Contextual Behavioral Science, 18, 214–238. 論文を読む
- Association for Contextual Behavioral Science. The Six Core Processes of ACT(心理的柔軟性のモデルと各過程の説明)
心理的柔軟性は、つらい気持ちをなくす競争ではありません。自分の気持ちと状況を確かめながら、大切にしたい関わり方を一つ選ぶための視点です。