「好きなところはあるけれど、不満も多い」「別れを考えても、これまで一緒に過ごした時間が気になる」。関係を続けたい気持ちは、今どれくらい楽しいかだけでは説明しきれないことがあります。
社会心理学の投資モデル(Investment Model)は、関係へのコミットメントを、満足度、投資の大きさ、代替の選択肢の質という三つの側面から考える理論です。
相手をつなぎ止める技術ではなく、「満足していること」と「続けたいと思うこと」を分けて理解する手がかりとして紹介します。
コミットメントは、満足度と同じではない
ここでのコミットメントは、関係を維持しようとする思いや関わりを表します。一方、満足度は、その関係をどれくらい好ましく感じているかという評価です。
楽しいから続けたい場合もあれば、今は不満があっても、共有してきた生活や失うものを考えて続けようとする場合もあります。関係が続いているという事実だけで、その人が満足しているかまでは分かりません。
Rusbultらの理論的な整理では、三つの要因がコミットメントに関わり、さらに関係を続ける行動などにつながる過程が想定されています。
理論の解説:Rusbult, Agnew, & Arriaga(2011), The Investment Model of Commitment Processes
投資モデルの三つの要因
1.満足度:今の関係を、どのくらい好ましく感じるか
一緒にいる楽しさ、支えられている感覚、負担や困りごとなどが関わります。同じ出来事でも、本人の期待や大切にすることによって評価が変わるため、外から見える条件だけで測れるものではありません。
たとえば、「会う回数は多いけれど、希望を言いづらい」「会える時間は短くても、予定の相談は丁寧にできる」といった経験を区別できます。
2.投資の大きさ:関係に結びつき、失われ得るもの
投資は、お金やプレゼントだけではありません。費やした時間や労力、共有した経験、二人の生活に結びついたものなども含めて考えられます。
「払った分を返してもらう」という精算の話ではなく、その関係が自分の生活にどれくらい結びついているかという側面です。投資が大きいことと、関係が良いことを同じ意味にしないようにしましょう。
3.代替の選択肢の質:その関係以外に、どんな可能性があると感じるか
「代替」と聞くと、別の恋人候補だけを思い浮かべるかもしれません。測定には、友人や家族との関係など、現在の恋愛関係以外で必要が満たされる可能性も扱われます。
別の相手を探すことを勧める概念でも、恋人以外とのつながりを減らすべきという意味でもありません。本人が、今の関係以外の生活や支えをどう捉えているかを考える側面です。
測定について:Rusbult, Martz, & Agnew(1998), The Investment Model Scale
5万人以上のデータをまとめた研究では?
Tran、Judge、Kashima(2019)は、1980年から2016年初めまでに集められた202の独立サンプル、50,427人を含む研究を整理しました。恋愛関係に限らず、投資モデルが使われたさまざまな対象を含むメタ分析です。
全体では、満足度と投資の大きさはコミットメントと正の関連、代替の選択肢の質は負の関連を示しました。三つのうち、満足度との関連が最も大きい結果でした。
ただし、相関をまとめた結果を、「満足度を何点上げれば、相手が何年付き合う」といった計算にはできません。研究対象や条件によって関連の強さは変わり、個人の決断を正確に当てるものではありません。
原著:Tran, Judge, & Kashima(2019), Personal Relationships
自分の気持ちを整理する三つの問い
以下は研究用の尺度ではなく、考えを整理する例です。合計点で交際継続や別れを判断する使い方はできません。
| 側面 | 自分に尋ねる例 |
|---|---|
| 今の経験 | うれしいこと、負担なこと、変えてほしいことは何か |
| これまでの結びつき | 大切な思い出と、失うのが不安な生活上のものを分けられるか |
| 関係以外の生活 | 相談できる人や、今後の生活の選択肢をどのくらい持てているか |
「続けたい」と思う理由を一つに絞らず、「一緒にいたい気持ち」と「生活を変える不安」が両方ある、と整理してもかまいません。
話し合うなら、「これだけ時間を使ったのだから」と相手の義務にするより、「今の生活で私はここに負担を感じている。どう変えられるか相談したい」と、現在の問題に戻る方法があります。
「投資させれば離れない」という使い方をしない
研究上の説明を、相手の選択肢を狭める方法へ変えてはいけません。お金や労力を無理に使わせる、友人とのつながりを切らせる、負担を増やして離れにくくする、といった行動は、良い関係を育てることとは別です。
コミットメントが高まる仕組みを説明できることと、その仕組みを利用するべきかは違います。相手が自分の意思で選べることを前提にしてください。
過去を大切にすることと、今後を選ぶことは両立する
一緒に過ごした時間に意味があったとしても、それだけでこれからも同じ関係を続ける義務が生まれるわけではありません。反対に、不満が一つあるからすぐに関係を終えるべきと、モデルが決めるわけでもありません。
調整できる問題なのか、相手が話し合いに応じるか、自分の希望や安全が尊重されているかなど、具体的な状況を考える必要があります。
脅しや強制があり、住まいやお金などの事情で離れにくい場合は、続いていることを満足や同意の証拠にしないでください。一人で決断や準備を背負わず、信頼できる人や相談先と、現実に使える支えを確認することもできます。
まとめ
投資モデルは、満足度だけでなく、関係に結びついたものや他の選択肢も、続けたい気持ちに関わると考える理論です。関係が続くことと、良い関係であることは、分けて考える必要があります。
相手を引き留める技術や、別れるべきかの採点表にせず、自分が何に満足し、何を不安に感じ、どんな支えを持っているかを整理する視点として使ってみてください。
参考文献・資料
Rusbult, C. E., Agnew, C. R., & Arriaga, X. B.(2011). The Investment Model of Commitment Processes. Purdue University, Department of Psychological Sciences Faculty Publications, Paper 26. 大学公開資料
Rusbult, C. E., Martz, J. M., & Agnew, C. R.(1998). The Investment Model Scale: Measuring commitment level, satisfaction level, quality of alternatives, and investment size. Personal Relationships, 5(4), 357–387. doi:10.1111/j.1475-6811.1998.tb00177.x
Tran, P., Judge, M., & Kashima, Y.(2019). Commitment in relationships: An updated meta-analysis of the Investment Model. Personal Relationships, 26(1), 158–180. doi:10.1111/pere.12268