恋人との間に不満があるとき、すぐ話す人もいれば、少し待つ人、距離を取る人もいます。同じ人でも、話題やその日の余裕によって反応は変わります。
社会心理学のEVLNモデルは、関係への不満に対する反応を、Exit、Voice、Loyalty、Neglectという四つの側面で整理する枠組みです。人の性格を四タイプに分ける診断や、別れを予測する段階表ではありません。
EVLNモデルの四つの反応
Rusbultらの研究では、反応を「積極的に働きかけるか、比較的受動的か」と、「関係の改善・維持に向かうか、関係の悪化・終了に向かうか」という軸で考えます。
| 反応 | 中心となる意味 | 理解のための例 |
|---|---|---|
| Exit(離脱) | 関係を終える・離れる方向への働きかけ | 関係を終えたいと伝える |
| Voice(発言) | 改善に向けて積極的に働きかける | 困る点を話し、調整方法を相談する |
| Loyalty(忠誠・静観) | 改善を期待し、関係を保ちながら待つ | 一時的な事情と考え、様子を見る |
| Neglect(放置) | 問題や関係の悪化を、働きかけずにそのままにする | 調整が必要なことを扱わなくなる |
研究用語の「建設的・破壊的」は、主に関係が保たれる方向かという分類です。その人の善悪や、人生にとっての正解を示す言葉ではありません。安全や尊厳を守るために離れる判断まで、悪いことと読み替えてはいけません。
どのような研究から生まれた?
RusbultとZembrodt(1983)は、大学生と、より幅のある成人のサンプルを使った二つの研究で、不満への反応の分類を検討しました。
不満を感じた場面での反応を集め、その反応同士がどれくらい似ているかなどを評価・分析したところ、四つの大まかなカテゴリーと、それを区別する軸が示されました。これは、先にRusbultらが提案したモデルを支持する結果でした。
原著:Rusbult & Zembrodt(1983), Journal of Experimental Social Psychology
ただし、この研究は「四つのうち、どの行動をすれば誰でも関係が良くなるか」を試した治療や介入の実験ではありません。時代や文化、測り方の違いも考える必要があります。
黙っているだけでは、静観か放置かは分からない
外からは同じ「何も言わない」に見えても、「今は忙しいから落ち着くのを待とう」と考えている場合と、「もう改善しようとは思わない」という場合では違います。
さらに、話したいのに怖くて言えない、考えをまとめる時間が必要、疲れて言葉が出ないといった事情もあります。目に見える沈黙だけから、研究上のカテゴリーを決めつけることはできません。
待つ気持ちは、相手に伝わりにくいことがある
Drigotas、Whitney、Rusbult(1995)は、交際中の二人が日常の不満にどう反応するかを日記で調べました。静かに待つ「Loyalty」は、他の反応より相手に気づかれにくく、誤解されることがあるという結果が示されています。
本人は関係のために待っているつもりでも、相手には関心がなくなったように見える可能性があります。「我慢していれば、思いは必ず伝わる」とは限らないのです。
原著:Drigotas, Whitney, & Rusbult(1995), Personality and Social Psychology Bulletin
自分の反応を振り返るなら、場面を一つ選ぶ
「私は放置タイプだ」「恋人は離脱タイプだ」と固定せず、最近の具体的な出来事を一つ取り上げてみます。
たとえば、予定が何度も変わることに不満を感じた場面なら、次のように分けられます。
- 何が困ったのか。待つ時間、予定の組み直し、連絡の遅さなどを具体的にする
- そのとき自分は何をしたのか。話した、待った、連絡を減らしたなど、行動を書く
- 何を望んでいたのか。改善したい、考える時間がほしい、関係を終えたいなどを確かめる
- 相手には、自分の意図がどの程度伝わっていたかを考える
これは研究で作られた採点手順ではなく、行動と意図を混ぜないための整理例です。一つの場面で複数の反応が重なったり、時間とともに変わったりしてもかまいません。
改善を話すときは、不満と希望を一つずつ
Voiceは、単に発言量が多いことや、相手を言い負かすことではなく、改善に向けた働きかけを指します。
たとえば、「いつも大切にしてくれない」ではなく、「予定変更が直前だと、仕事の調整が難しくて困る。分かった時点で知らせてもらえる?」と、具体的な困りごとと希望を伝えられます。
すぐ結論が出ないなら、「今日は難しいから、週末にこの話を相談したい」と、今の状況と次の機会を伝える方法もあります。会話を中断する具体例は、話し合いを休憩したいときの記事で紹介しています。
待つなら、何を待っているのかを共有できる
「今週は試験で忙しいと聞いたので、終わってから予定を相談したいと思っている」のように、待つ事情を言葉にできます。ただし、相手が応じないまま無期限に待つ義務はありません。自分の負担や、どの時点で見直したいかも大切にしてください。
話し合うことを、いつでも最優先にしない
不満を伝えると怒鳴られる、脅される、拒否を認めてもらえない場合に、「Voiceが良いからもっと話そう」と一人で努力し続ける必要はありません。話し合いには、双方が安全に参加できる条件が必要です。
また、関係を終えることは、モデルの中で関係維持に向かわない反応として整理されても、本人の生活にとって適切な選択になり得ます。関係の維持と、本人が無理なく暮らせることは、同じ評価ではありません。
続けたい気持ちの背景には、満足だけでなく共有した生活なども関わります。関連する理論は恋愛の投資モデルの記事で説明しています。
まとめ
EVLNモデルは、恋愛関係への不満にどう反応するかを、離脱・発言・静観・放置の側面で整理します。性格診断や、別れまでの順序を示すモデルではありません。
相手を分類するより、自分が何に困り、どう行動し、何を望んでいるかを確かめるために使ってみてください。黙っている理由を決めつけず、安全に話せる条件と、自分で選ぶ余地を大切にしましょう。
参考文献
Rusbult, C. E., & Zembrodt, I. M.(1983). Responses to dissatisfaction in romantic involvements: A multidimensional scaling analysis. Journal of Experimental Social Psychology, 19(3), 274–293. doi:10.1016/0022-1031(83)90042-2
Drigotas, S. M., Whitney, G. A., & Rusbult, C. E.(1995). On the peculiarities of loyalty: A diary study of responses to dissatisfaction in everyday life. Personality and Social Psychology Bulletin, 21(6), 596–609. doi:10.1177/0146167295216006