「私は愛される人だ」と毎日言えば、恋愛の不安は消えるのでしょうか。前向きな言葉が励みになることもあれば、今の気持ちと離れすぎて、かえって苦しくなることもあります。
心理学の自己肯定化(self-affirmation:セルフアファメーション)は、研究では、自分が大切にしている価値観などを振り返る方法として扱われます。理想の結果を言い切るポジティブな宣言とは、同じものではありません。
自己肯定化は「自分は完璧だ」と思うことではない
失敗や拒否を感じると、「自分は全部だめだ」と、出来事の意味が自分全体へ広がることがあります。自己肯定化の理論では、人には自分全体が適切で価値のある存在だという感覚を保とうとする働きがあると考えます。
研究では、自分にとって大切な価値を選び、なぜ大切なのかについて短く書く、といった方法が用いられます。ある一つの失敗や評価だけに、自分のすべてを狭めない見方に関わるものです。
CohenとSherman(2014)のレビューは、教育、健康、対人関係などの研究を整理しています。ただし、効果は状況や実施のタイミング、利用できる環境などにも関わります。
レビュー:Cohen & Sherman(2014), Annual Review of Psychology
ポジティブな言葉を繰り返す方法とは分けて考える
Wood、Perunovic、Lee(2009)は、肯定的な自己についての言葉を繰り返すことを検討しました。実験では、自尊心が低い参加者が「自分は愛される人だ」という趣旨の言葉を繰り返したり、その言葉が正しい面にだけ注目したりすると、比較条件より気分が悪くなる結果が示されました。
この結果は、「前向きな言葉はすべて有害」という意味ではありません。研究で用いた言葉や条件での結果です。一方で、「信じられないなら、もっと何度も言うべき」と、誰にでも反復を勧められるわけでもありません。
大切な価値を思い出すことと、今は納得できない評価を自分に言い聞かせることは、区別する必要があります。
原著:Wood, Perunovic, & Lee(2009), Psychological Science
対人関係の不安について調べた実験もある
Stinsonら(2011)は、短い自己肯定化を行う縦断実験で、他者から大切にされているという安心に乏しい参加者の変化を検討しました。
介入の4週間後まで、対人関係での安心や、実験者が評価した対人的な振る舞いの改善が報告されています。また、4週間後の安心の改善は、さらに4週間後の振る舞いの改善にも関わっていました。
ただし、これは一般的な対人行動を扱う研究で、告白の成功率や、特定の恋人からの愛情が増えたかを検証したものではありません。「一度書けば恋愛がうまくいく」と広げないことが大切です。
原著:Stinson et al.(2011), Psychological Science
恋愛の場面で参考にするなら、結果より大切なことを
ここからは研究の手順をそのまま再現する課題ではなく、価値観を振り返る例です。恋愛の不安を消すことや、相手の気持ちを変えることを目標にせず、今の自分が大切にしたいことを言葉にしてみます。
価値観を一つ選ぶ
誠実さ、好奇心、友人とのつながり、学ぶこと、創造することなど、今の自分にとって意味のあるものを選びます。「恋人に評価されそうなもの」や「立派に見えるもの」である必要はありません。
なぜ大切かを、自分の経験と結びつける
たとえば、次のような短い文章でもかまいません。
私は、分からないことを学ぶ時間を大切にしたい。新しいことを知ると、恋愛の出来事だけで一日が決まる感じが少し薄れる。誰かに褒められなくても、知ること自体を楽しめる時間がある。
これは記入例であり、実際の参加者や筆者の体験談ではありません。同じ文章を繰り返すためではなく、自分なりの内容を考える手がかりです。
恋愛以外の大切さを、成果の競争にしない
「仕事でも趣味でも成功しなければ、自分には価値がない」と、評価の条件を増やす必要はありません。うまくできたかより、なぜ大切なのか、どんな時間を過ごしたいのかに目を向けます。
また、価値観を振り返ったあとに不安が残っても、失敗ではありません。「不安はあるけれど、今日は友人との約束も大切にしたい」のように、複数の気持ちと行動を持つことができます。
不安があっても大切にしたい行動を選ぶという視点は、心理的柔軟性の記事でも扱っています。自己肯定化とは異なる概念なので、同じ効果があると混同しないでください。
相手の拒否や、現実の問題を上書きする方法ではない
「私は愛される」と信じることを、相手が断ったのに連絡を続ける理由にはできません。相手の意思や境界線は、こちらの考え方とは別に尊重する必要があります。
同様に、相手から侮辱されている、無理な要求が続いているなどの問題がある場合は、自己肯定化だけで受け止め方を変えようとしないでください。現実の接し方の問題と、自分についての見方は分けて考えられます。
書くことが苦しい、自己否定が強まる場合は、いったんやめてかまいません。負担が生活に広がるときは、一人で課題を続けるより、心理職などに相談することも選択肢です。
まとめ
自己肯定化は、研究では、自分にとって大切な価値を振り返るなどして、自分全体を広く捉える働きかけとして検討されています。肯定的な宣言を繰り返すこととは区別されます。
恋愛への応用を考えるときも、相手の気持ちや将来を変える保証として使わず、自分が大切にしたいことを思い出す視点として受け止めてください。無理に前向きになることを、自分の義務にしなくて大丈夫です。
参考文献
Cohen, G. L., & Sherman, D. K.(2014). The psychology of change: Self-affirmation and social psychological intervention. Annual Review of Psychology, 65, 333–371. doi:10.1146/annurev-psych-010213-115137
Wood, J. V., Perunovic, W. Q. E., & Lee, J. W.(2009). Positive self-statements: Power for some, peril for others. Psychological Science, 20(7), 860–866. doi:10.1111/j.1467-9280.2009.02370.x
Stinson, D. A., Logel, C., Shepherd, S., & Zanna, M. P.(2011). Rewriting the self-fulfilling prophecy of social rejection: Self-affirmation improves relational security and social behavior up to 2 months later. Psychological Science, 22(9), 1145–1149. doi:10.1177/0956797611417725