本当は寂しかったけれど、「全然平気」と笑った。うれしかったのに、気持ちを見せすぎないようにした。恋人の前でも、感情を表に出さないよう調整することがあります。
心理学では、感情の外への表れを抑えることを感情表出の抑制(expressive suppression)と呼びます。表情、声、言葉などに出さないようにすることで、感情そのものがなくなったとは限りません。
研究では関係への負担との関連が報告されていますが、「どんな感情も、すぐに全部伝えるべき」という結論とは区別する必要があります。
感情を隠すことと、感じ方を変えることは違う
「悲しくないように見せる」は、悲しさの外への表れを調整することです。一方、出来事について別の見方を考えたり、必要な休息を取ったりすることは、同じ方法ではありません。
また、落ち着いて言葉を選ぶことも、感情を永遠になかったことにすることとは異なります。「今は話せないから、あとで相談したい」と伝え、時間を置く方法もあります。
外から感情が見えないだけで、本人が何を感じ、どのように調整しているかまでは判断できません。表情が静かな人を一律に「抑え込んでいる」とみなさないでください。
日常の感情の抑制と表現を調べた研究
CameronとOverall(2018)は、恋愛や親しい関係における日々の感情の抑制と表現を、経験サンプリングや縦断研究を用いた四つの研究で調べました。
感情を抑えていたときには、疲労感や、他者から受け入れられている感覚の低さ、関係満足度の低さなどとの関連が見られました。日常的な抑制は、その後の満足度の低下とも関わっていました。
一方、感情を表現することは、つながりや満足度などの好ましい側面と関わりました。ここで重要なのは、抑制と表現が単なる一つの尺度の両端ではなく、異なる過程として結果に関わっていた点です。
原著:Cameron & Overall(2018), Emotion
「抑制をやめる」と「うまく表現する」は同じ課題ではない
無理に平気なふりをすることが減っても、気持ちや希望を言葉にする方法が、すぐ分かるとは限りません。反対に、よく話しているように見えても、肝心な気持ちだけは隠している場合も考えられます。
研究でいう表現を、怒りをぶつけることや、相手を責め続けることと同じにしないでください。また、縦断的な関連があっても、抑制だけが原因と確定できるわけではありません。
言いにくい話題では、抑制が強まりやすかった
Selsら(2025)は、ベルギーのカップルを対象とした二つの研究(101組と130組)で、相手の困る特徴を話す場面と、価値を感じる特徴を話す場面を比較しました。
困る特徴について話す場面では、感情をより強く抑えたと報告されました。また、抑制は、相手が自分を理解し応じてくれるという感覚や、親密さの低さと関連しました。
ただし、どちらの場面で関連がより悪くなるかは、測った感情や結果によって一貫しませんでした。「難しい話題のときだけ問題」「楽しい話なら隠しても無関係」と単純には言えません。
この研究も、感情を隠すよう割り当てて二人の長期的な改善を確かめた実験ではありません。場面での自己報告と関係の評価を中心とする結果として読んでください。
気持ちを出すなら、小さく具体的に
次の例は、上の研究で効果を確認した会話法ではありません。何でも一度に話すのではなく、出来事、感情、希望を分けるための例です。
「平気だよ」と言ったあとなら、次のように言い直すこともできます。
さっきは平気と言ったけど、予定がなくなって少し寂しかった。責めたいわけではなくて、次に会う日を相談できたらうれしい。
うれしい気持ちを見せにくいときなら、「ちょっと照れるけど、声をかけてくれたのはうれしかった」と、今の反応を短く伝える方法もあります。
気持ちを言ったら相手が必ず希望に応じる、という契約ではありません。相手にも事情があるため、感情を知ってもらうことと、行動の調整は分けて相談できます。
今は話さない選択にも、理由がある
仕事中、人前、疲れが強いときなど、今すぐ話すのが適切でない場面もあります。「感情を隠すのは良くないらしい」と、相手の都合を無視して話し始める必要はありません。
「この話は大事だから、今日は休んで明日相談したい」「今は言葉がまとまらない」と、話す条件を伝えられます。自分でも何を感じているか分からないなら、感情ラベリングの記事で紹介しているように、まず言葉を探してみる視点もあります。
相手が静かなとき、無理に感情を出させない
「本音を隠しているでしょ」と問い詰めても、安心して話せるとは限りません。「何か話したいことがある? 今でなくてもいい」と、本人が答え方を選べる余地を残します。
また、相手が気持ちを話したときに、すぐ「考えすぎ」「そんなことで」と結論づけると、具体的な困りごとを聞く機会を失います。「その場面で寂しかったんだね」と受け止めたあと、必要なことを確かめられます。
理解することと、全部に同意することの違いは、共感的正確さの記事でも説明しています。
安全に話せない状況を、本人の努力だけにしない
気持ちを伝えると怒鳴られる、脅される、罰を受けるような関係では、隠すことが自分を守るための反応になっている場合もあります。研究を理由に、危険な場面で開示する義務はありません。
「自分がもっと素直になればよい」と一人で責任を引き受けず、信頼できる人に状況を話すなど、安全に使える支えを考えてください。気持ちを表現する方法だけでなく、受け止めてもらえる環境も重要です。
まとめ
感情表出の抑制は、感情を外に見せないようにする調整です。親しい関係での負担や満足度との関連が報告されていますが、何でもすぐ伝えることが正解という意味ではありません。
自分の気持ち、相手の状況、安全に話せる条件を分けて考えてみてください。平気なふりを続ける以外に、短く伝える、言葉を探す、話す時間を相談するなどの選択肢があります。
参考文献
Cameron, L. D., & Overall, N. C.(2018). Suppression and expression as distinct emotion-regulation processes in daily interactions: Longitudinal and meta-analyses. Emotion, 18(4), 465–480. doi:10.1037/emo0000334
Sels, L., Overall, N. C., Loeys, T., Verhelst, P., & Kalokerinos, E. K.(2025). The use and consequences of expressive suppression in high-risk and low-risk relationship discussions. Emotion, 25(5), 1293–1305. doi:10.1037/emo0001494